フイルムのない映画達 ♯01
コロニーへの手紙
お母さんへ
お元気ですか?持病の宇宙性リウマチの具合はどうですか?お陰様で僕は元気です。
先日送って頂いたクッキー、美味しくいただきました。懐かしくて美味しくて、一気に全部食べてしまいました。いつまでも保存が効くようにと、せっかくお母さんが、一個一個わざわざ真空パックしてくださったというのに、なんだか申し訳ない思いがしました。
そんな事より。
今日、筆を取って、こうしてお手紙を書いているのには理由があります。どうしてもお母さんに伝えておかなければならない事があるのです。
明日……
明日、僕はザクに乗って、連邦のモビルスーツと戦います。
作戦の詳細を述べるわけにはいきませんが、明日未明、ジオン公国北米基地第三空挺団は、連邦軍の鉄壁要塞、ジャブローに対して、決死の降下作戦を決行します。
明日今頃の僕はといえば、ただひたすら勝利を頑なに信じてザクに搭乗し、難攻不落の巨大地下要塞ジャブロー目掛け、この総身を火の玉の如き激情に委ね、ただひたすら真っ直ぐに降下している事でしょう。
本当は恐いのです。
正直恐ろしくて仕方がないです。だって同期生のマイクも、ジョーイも……同期生の紅一点マリアンヌまでもが……先の戦いで、あの連邦の白いモビルスーツの攻撃の手によって、帰らぬ人となったのですから。
でも逃げるわけにはいきません。
散っていった多くの仲間達のためにも、あの憎っくき連邦の白いモビルスーツに、きっと一矢報いるつもりです。いや、白いのが無理めなら、あの肩に大きなキャノンを2門備えた赤い奴、もしくは戦車?みたいな青い奴でも構いません。ともかく明日僕は、ジオン公国の一兵卒として、立派に戦い抜く覚悟です。
せめて……せめてザクではなくドムに乗れたなら……いや、そんな弱気ではいけませんね。何に乗って戦うかなんて些細な事です。人間死ぬ時は死ぬのです。その時に乗っていたモビルスーツが、グフだろうとゲルググだろうと、死んでしまえば関係ないのです。またそれは言い訳にもなりやしないのです。
僕の今の希望と言えば、戦いの最中、緊迫した命のやり取りの最中に、僕に何か新しい力……そう、言うなればニュータイプな力が宿って、奇跡的に敵の動きを察知したり、神がかった動きで戦況を好転させたりできはしまいかという事です。
どうか、愚かな息子を笑ってください。この期に及んで、そんな空想にでも寄りかかってないと、まともに立っている事すらできないぐらい弱い、貴女の息子を。
ともかく、僕は明日、ザクに乗って戦います。
どうかお母さん。サイド3から、僕の無事を……いや、ジオンの勝利を祈っていてください。
PS.
先週末、シャア少佐にお会いしました。恐い方だと思っていたのですが、意外にもとても気さくな方で、戦争が終わったら、「一緒に釣りに行こう」とまで約束してくださいました。あの方の為なら命も惜しくないと、素直にそう思えました。
作品名:フイルムのない映画達 ♯01 作家名:或虎