フイルムのない映画達 ♯01
かふかふ
朝起きると、僕は……
家電製品のようになっていた。
家電製品になっていた訳ではない。家電製品のようになっていたのである。
具体的に言うと……僕のへそから、コードが飛び出している。そしてコードの先には、当然のように差し込みプラグが付いている。
「これでは、まるで家電製品ではないか?!」
僕は、ベッドに腰掛けて、呆然として自分のへそを見つめる。へその穴から伸びている白いコード、そしてその先端部には……何度見返しても差し込みプラグ。
「僕は……家電じゃない!」
強く否定してみた……が、その否定は、虚しくアパートの部屋に音響するだけで、誰に届くこともなく、また目の前の現実に対して何ら解決を導く訳でもなかった。
「僕は……家電なのだろうか……」
自問してみた……思い当たるフシはない……
「家電って……そもそも何なんだ?」
思いつく家電を、片っ端からリストアップしてみた。
洗濯機、冷蔵庫、TV、電子レンジ、掃除機、オーブントースター、炊飯器、布団乾燥機、食器洗い機、パソコン、エアードライヤー、ライトスタンド、エアコン……etc
自分で書いたリストを眺めながら、小一時間思案したのだが……どう考えても、僕は、このリストにあるどの家電にも該当しそうにない……気がする。
「嗚呼……こんなちっちゃな差し込みプラグ1つを付与されるだけで……こんなにも脆くアイデンティティが崩れ去るとは」
僕は絶句した。ゲシュタルトが崩壊寸前だった。
「このプラグを……コンセント口に差し込んでみたら……僕はどうなるのだろう?」
もう解決方法は、それしかない気がした。このプラグを差し込む事で、すべてが判明するはずだ。果たして僕が、家電製品であるのかどうなのか?そして、家電製品であるならば、どういった種類の機器なのか――僕に一体どういった機能があるのか――が判明することだろう。
僕は、コードを手繰って、プラグを手に握る。部屋を見渡して、壁際で遊んでいる差し込み口を見つける。重い足取りで近づき、膝を曲げて正座した。しばらくそうしていた。
震える手でプラグを摘み、そうっとコンセントに近づけては、躊躇して止める……そんな事を多分数十回は繰り返しただろう。
「このままではダメだ!」
やるしかない!
「エイッ!」
思い切ってプラグをコンセントに差し込んだ。すると……
「充電中です」
「ええええええーーー?」
プラグインした途端、腹の中から「充電中」のアナウンスが流れた。僕は急いでプラグを引きぬいた。
「はぁはぁ……はぁ……はぁはぁ」
体中の震えが止まらない。心臓がバクバク言っている。
「僕は……ポータブルタイプなんだ……」
コンセントにプラグを差し込んで分かった事、それは、僕がポータブルであるという1つの事実のみであった。
「僕には……どんな機能があるんだ?……僕は……何なんだ?」
分からなかった……分からなくなった……そしてしまいに、分かりたくなくなった。
*****
着替えて外に出た。コードは、ビニールでコーティングされた針金のヤツで綺麗に束ねて、ズボンのポケットにねじ込んである。
「わんわんわんわん」
アパートの階段を降り、コンビニに向かう道すがら、野良犬に出会った。真っ黒い野良犬、よく見ると野良犬の尻尾の先から、コードが出ていて、その先にはプラグが付いてた。
「そういう事か」
僕は妙に納得して、最近ハマっているアイスを買いに、少し足早に歩きだした。
作品名:フイルムのない映画達 ♯01 作家名:或虎