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言の寺

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「あのバス停に月はなかった」



火星行きのバス停で僕は
片道に満たぬ金額の小銭
ポケットに握りしめ

遠い宇宙を見上げていた

普段見えない宇宙
でも夜になれば

――こんなに近くに見ることができる

バスストップの映し出すホログラフィー
僕の顔を照らしている

立派な大人の女性が
子供用みたいなちっちゃい水着を着て
僕を手招く

「さぁ、貴方も火星に移住しませんか?」

僕が何か応えようとすると

スッ

とホログラフィーは消えた

…………

「そろそろバスが来るな」

ぶぶーん

排気ガスを丁寧に街に撒きながら
錆びた鉄バスがやってくる

「コノバスハ……ミナミヤマコウミンカンマエケイユ……エキマエイキ……デス」

立ち上がらない僕を見てバス
ドアをさっさと閉めてしまった

そうして再びアスファルトの延長
排ガスを散布する作業に戻る

「宇宙は……まだまだだな」

見あげれば月はなく僕は……

いつか大人になろうと思った

作品名:言の寺 作家名:或虎