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悪魔のための死神業

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「申し訳ございません。こちらの世界に来るには、死んでいる状態を保持しなければならないので、少々手荒な真似をしてしまいました。ここは悪魔の世界でございます。まあ、中心街からはかなり離れておりますが・・・。」
「悪魔の世界もそう遠くはないな・・・。」
 僕が目を覚ましたのは、イブリースの馬車の上だった。なぜか服が着替えさ
せられていた。黒いシャツ、黒い半ズボン、黒いニーハイ、黒いマント、黒い
靴、鏡を渡されたので見ると、黒い口紅、刺青のようなあれはまだついていた。
「そういえば貴女様は死んだとき『なぜ、死ななければならなかったのか』とおっしゃっていましたが・・・。」
そこで、言葉を止めた。なぜかこっちを見ている。
「おい。前見ろよ。それとも、本当に僕が死んだ理由があるのか?」
「悪魔ですね・・・。」
 そう呟いた。
僕は、その意味が分からなかった、もしくは、無視をした。そのあとは何も話さなかった。

 そこから一時間ほどだろうか。あまりにも暇で分からなかったが、どうやら
行先に着いたようだ。
「なんだ、ここ・・・。」
 そこは、まるでお城のような建物で、庭園には、黒いバラが咲き誇っていた。
「ここは、簡単に言えば就職先を探すところです。先ほどもご説明いたしまし
たが、貴女様にはお仕事がございます。」
 中に入ると、食事の用意がしていて、席には何人かが座っていた。広い部屋
で奥には暖炉もある。
「少々遅れてしまったようですね。手前から三番目の席にお座りください。私  
 はここまでしかお連れすることができませんので…。」
「待て。」
 僕は無意識に、今立ち去ろうと、来た道を振り返った彼を、呼び止めた。そうだ、僕は聞きたいことがあった。
「イブリース。お前はなぜ、そんな丁寧な敬語を使うんだ?」
イブリースはきちんとこちらを振り返って、なんだか悲しい顔で、
「貴女方は私のようなものには到底及ばない、高貴なお方なのです。特別な存在なのですよ。理由とすれば、この汚い世界から自ら飛び立った、勇者です。」
 と、言った。あまりわからない理由だが、何かが抜けている気がした。その何かは、後々分かったが。

 僕は、イブリースに言われたとおりに席に着いた。しばらく沈黙が続いたがたまに、僕のように連れられてきた人間や、関係者のような人物が入ってきた。
そして、席が全部埋まり、何やら会議のようなものが始まるらしい。
「はじめまして。アネムプロイドのみなさん。」
 暖炉の反対側に座っている、いかにも貴族という感じの女性が専門用語的なものを使って話し出した。
「あたくしは、天の神、称号は聖母のアヴェ・マリア・テオトコスと申しま
す。貴方方はこの世界の事をちっとも…失礼。何もわからないでしょうから、ミカエル、説明を。」
なるほど。聖母となればそれは偉いか。さすがキリスト教。でも、ちょっと
天然か、この人。しかも何の説明もないから、理解が難しい。頭が回らない。
「イエス。では、ご説明させていただきます。手前は――」
「アリルエ・ミカエル・テオトコス」
 なぜかマリア様が割って入ってきた。
「いつも噛むから、今日こそは…。」
 理由を呟いたらしいが、ツイッターでも聞こえないほどの呟きだった。
「イエス。手前の称号は大天使といいますが、ではまず称号からご説明いたしましょう。」
 ここからがとてつもなく長かった。

・・・。

「簡単に説明しますと、貴方方はまだ称号をもらうに至らない、未就職者〈アネムプロイド〉という事です。」
 最初からそう言ってくれれば良かったのに。誰もがそう思っているだろう。
 おまけに、いや。おまけどころではない。
「マリア様。マリア様。」
 居眠りをしている美熟女がいる。その反対側に座っている、いかにも悪魔という大柄な男(どう考えてもサタン)は、呆れた顔で天井を見ている。ほかの関係者も頭を抱えている。
「はぁ。申し訳ございません。では、マリア様に代わって仕切りさせていただきます。お次は自己紹介といたしましょう。」
 僕達はずっと話を聞いていたからいい加減何か話したくなっていたと思う。
なぜなら、隣に座っている、汚い男が何やらぶつぶつっていたからだ。内容
的には、そんなところだ。
「ああ、それから、生まれと、死んだときの年齢、暮らしもお願いいたします。」
 それから、何人かが自己紹介し、僕の番がやってきた。自己紹介というと高校のときから使っている、新しいやつがある。でも、本当のことを話すわけがない。
「自己紹介・・・。自分は、八方神 巫・・です。日本生まれ。十七歳。神主の家系で不自由なく、幸せに、暮らしていました。以上・・・。」
 できるだけ友達をつくらないように、目立たないように、静かにかつテンポ
良く。自分の言い様に生きたいと思っていた。そう過去を振り返り始めた時、
「――を話しているねぇ・・・。」
「えっ。」
 次の人間に回っただろうと思い、全然話を聞いていなかった。それに加えて
考え事もあった・・・。
 先ほど話したらしい男が、僕を見ている。
「おやぁ、聞いていなかったのかい?もう一度言うよ。君の自己紹介は嘘だって言ってるんだよ。どうだい?」
 変なしゃべり方で、話してきた。その男は確か僕の前に自己紹介をしていて、
長い名前だったから覚えていない。余計に顔は残っている。
「黙ってないで。まさかぁ、今のも聞いてなかった?」
「すいません。考え事をしていて・・・。」
「そうかい。じゃあ、自己紹介は?」
「嘘じゃありませんよ。まぁ、嘘があっても個人情報だから答えなくても結構ですよね。」
「そうだねぇ。でもここでは個人情報を言ってくれなきゃ困るよぉ。しかも君は人の話を聞いていない、悪い子だからねぇ。」
 まさか、こんなところで大きな壁にぶち当たるとは、思っていなかった。元々、
この世界にいるだけで、壁に縛り付けられたようなことだけど・・・。その壁をぶち破るいい機会かもしれないが、言うなれば、思春期の女の子が、みんなの前でキスをするというくらいの屈辱。当たって砕けろ、なんて言葉があるが砕けた後どうするんだという事だ。
「君、そのまま黙ってるならここにいる資格がないねぇ。連れてくるだけなの
に、殺された小悪魔たちの事も考えなよ。まぁ、僕は死神だから、関係ないけどねぇ。」
「殺された?」
「そうだよ。君たちは特別なんだ。滅多に悪魔なんかに魂を取られることは、
無いんだよ。その魂を特別な許可を取って食したのがあいつら・・・。簡単に言えば・・・高級料理をあげるから死ね。っていう事。」
「そうか・・・。」
 僕はやっとわかった。悪魔のイブリースが、僕のことを悲しい顔で見つめていたのも、何かが抜けていた。それは、彼奴に悪魔だろうと関係ない『死』が、
待ち受けていたことだった。
「悪魔でも死ぬんだぁ・・・。フフフッ。かわいそうに。」
 僕には何だか、この世界が楽しく見える。あっちでは、ありえないと思っていた世界が、こんなに近く、それ以上にいきなりこんな簡単に飛び込めたことに、感謝の意さえ感じる。いいだろう。もう屈辱なんてものには支配はされないのだ。先ほどの言葉も撤回しようか。
作品名:悪魔のための死神業 作家名:紅 若菜