人でなし?
『現在、アグリー通りで暴れているリザードマン1体は、駆けつけた警察官のうちの数名を殺害しており、このままでは逃走する危険性有り! 現場に到着次第、駆除せよ!』
司令部にいる女性オペレーターからの通信音声が、スピーカーから閉め切った車内に響き渡る。揺れる車内のイスには、6人の兵士が座っており、全員がNBC装備を身にまとっていた。そして、彼らの両手には、付属品まみれの自動小銃があった。
ものものしい彼らは、全速力で走行している歩兵戦闘車に乗っている。機関砲がついた砲塔は、ときどき向きを変える。
歩兵戦闘車が走る車線の反対側の車線を、数台の民間車両が全速力で走り去っていった。間違いなくスピード違反だろう。
『よほど強い奴か嫌われ者だったんだろうな』
歩兵戦闘車の兵士が、銃眼から外をのぞきながら言った。
『やれやれ、今日はもう12匹目だぞ?』
『いや、13匹目だよ』
『早く基地に帰りたいぜ』
車内で座っている兵士たちが、インカムを使って会話し始めた。すると、軽口を叩き始めた彼らに対して、
『おまえら、たるんどる!!! 我々が何のために戦っているのかを忘れたのではないだろうな!?』
無駄に元気な脳筋隊長が怒鳴った……。
『リザードマンから人々を守るためでしょう? まるでコミックですね?』
『おまえは黙っていろ!!!』
バーナードという兵士に隊長が怒鳴る……。
『しかし、隊長。この作戦はいつ終わるのですか?』
バーナードの隣りにいた兵士が隊長に尋ねる。その兵士の名札には、アンドルーズと書いてあった。
『トカゲどもを皆殺しにするまでだ!!!』
アンドルーズという兵士の問いかけに、隊長は自信満々の口調で答えた……。その解答を聞いた兵士たちは、隊長に気づかれように落胆した……。
『リザードマン』(『トカゲ』と呼ぶ者もいる)というのは、ウィルス感染により、トカゲと化してしまった人間のことである……。爬虫類向けのエサの成分が、トカゲといったペットの体内で突然変異したことにより、誕生してしまった新種のウィルスだ。どうやら、エサに入っていた遺伝子組み換えの食材のせいらしい……。
リザードマンは、背丈は人間より少し高く、鋭いツメとキバを持っており、暴力的で野蛮な生物だった。そのため、他者や公共の利益のために、駆除するしか対処法が無かった……。しかし、皮膚を固いウロコが覆っているので、駆除は容易ではない。
――彼らを乗せた歩兵戦闘車は、現場に到着した。元は人間だった哀れなリザードマンが、耳障りな鳴き声で出迎えてくれた……。
現場は、まるで自暴自棄になった殺人鬼が暴れたかのような状況だった……。凄惨な有り様の死体が道路のあちこちに落ちており、まだ息がある人は逃げようと努力している。放置されている車両は、良くて大破、悪くて炎上という状態で、廃車置場直行なのは間違い無しだ。
問題のリザードマンは、元の人間が大男であったことがわかるほどデカかった。そのデカさを活かして、力任せに暴れ回っており、現場の警察官たちは、自分の身を守るのが精一杯の様子だ。
『車内待機組以外は、ただちに降車!!!』
隊長のかけ声とともに、車内待機組であるアンドルーズとバーナード以外の兵士たち3人が、車両から駆け降り、隊長も威勢良く駆け降りていった。
アンドルーズとバーナードは、車両の銃眼から自動小銃を突き出し、リザードマンに狙いをつけた。車両の機関砲の狙いもそちらに向く。警察官たちは、万一の場合や誤射を恐れ、現場から離れていった。