Minimum Bout Act.03
そうなのだ。カッツは幾度もセイラから無線連絡を受けていたのだが、面倒臭いために無視し続けていたのだ。どうせ内容は同じなのだし、特別セイラと話しがしたいという気にもならないのだから無視するしかない。
多少良心が痛まないこともなかったが、話せばこうやって口喧嘩になってしまうため、無駄な労力を使わないで済むのならそれに越したことはないのだ。
かといってカッツは別にセイラの事が嫌いな訳ではない。幼い頃を共に過ごしたのだし、セイラの両親にも世話になった。友人としてのセイラは大切にしたいと思うが、結婚となると話しは別だ。
「あーもうやめようぜ。何度も言うが、俺はお前と結婚する気なんざねえ。だから諦めろ……嫌なんだよ、お前にこういうこと言うの」
急に静かになったカッツの口調に、セイラも口を閉じる。
「ーーー水張って火をつけるから、お前はシンと晩飯の調達に行って来い」
「……分かったーーー」
カッツと視線を合わせないように俯いたまま答えると、セイラは静かにその場を離れた。
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夜になり、カッツとシンは交代で番を張ることにした。
生まれて初めて見る地球からの星は、普段よりも輝いているようだ。
「もう交代の時間か?」
ぼんやりとビルの外壁に背中を預けて空を見上げていたカッツが、シンの足音に向かって尋ねる。
シンはビルの入り口から姿を現し、カッツの隣りに腰掛けながら首を振る。
「いや、目が冴えて眠れなくてな」
「そうか……セイラは?」
「やっと寝たよ」
カッツの言葉に傷ついたであろうセイラを、カッツが慰めてやることなど出来ない。何を言った所で同じ事の繰り返しなのだ。
確かにセイラのように自分を好いてくれる女性は、二度と現れないかもしれない。
だが、カッツにはどうしても忘れられない女がいた。
ふと目を伏せると、シンが尋ねてきた。
「……なあ、カッツがMBをやろうと思ったきっかけって、一体なんなんだ?」
リドヒム軍を退役した後、シンはカッツと共に歩んできた。軍人を辞めて何をするのかと思えば、カッツは随分前から決めていたらしい人探し屋をやらないかと、すぐにシンに提案したのだ。
作品名:Minimum Bout Act.03 作家名:迫タイラ