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何度でも、あなたに恋をする~後宮悲歌【ラメント】~ Ⅲ

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「ユン、何を?」
 しかし、応えはなかった。膝裏を掬われ、抱き上げられたかと思うと、そのまま床に乱暴に降ろされた。
「ユン、止めて」
 身を起こそうしても、即座にユンが伸しかかってきて押し戻される。
「ユン、お願いだから」
 一旦は押し戻した涙がまた溢れそうになっている。覆い被さってきた彼は怖いくらい迫力があった。
 ユンの身体を懸命に押しやろうとしても、やはり少女の力では大の男に敵うはずもない。
「好きだ、好きなんだ。判ってくれ」
 うわごとのように繰り返すユンの吐息は異様に熱かった。
 顔が近づき、唇を塞がれる。
「ん、んぅっ」
 全力で顔を背けようとしても、両手で顔を固定されているため、身動きもできないのだ。角度を変えた口づけは永遠に続くかと思われた。明姫は息苦しさにもがいた。
「く、苦し」
 呼吸ができない。明姫はあまりの苦悶にわずかに口を開く。刹那、待っていたかのように、ユンの舌が入り込んできた。
 なに、何なの? 明姫はひたすら怯えた。
 十五歳で、それでなくても女官仲間からは〝奥手の明姫〟とからかわれている彼女は男女の間のことは何も知らない。
 朋輩たちがその手の話で盛り上がっていても、話には加わっていても聞き役ばかりなのだ。
 怯えて逃げ惑う舌を追いかけ、ユンの舌に絡め取られる。絡めた舌を強く吸い上げられ、明姫は驚愕した。
 抵抗がいっそう烈しくなる。明姫は小さな手で懸命にユンの身体を押した。ありったけの力を込めて突き飛ばしたため、一瞬、男の身体が揺らいだ。その隙に明姫は急ぎユンの身体をかいくぐり、彼から離れた。
「明姫、諦めろ。そなたは今宵、私のものになるのだ」
「何でなの? ユン、無理強いはしないって言ったじゃない。約束したのに」
 最後は涙混じりの声になった。
「済まない。だが、そなたを手放すことなど最早、考えられないのだ」
「いやっ、誰か、助けて。助けて」
 壁際まで追いつめられた明姫は、とうとう泣き出した。ユンが再び襲いかかってきて、明姫は悲鳴を上げる。
「ユン、止めてよ。お願いだから、止めて」
 どうして、こうなるの? あの優しいユンがまるで別人のように豹変して欲望のままに自分を犯そうとしている。その現実がどうしても信じられなかった。
 勢いでその場に押し倒され、すかさずユンが覆い被さってきた。ピリッ。衣の裂ける音が自分の心の悲鳴のように聞こえる。
「ユン、いや―」
 すすり泣く明姫には頓着せず、ユンは狂ったようにチョゴリを引き裂いてゆく。
「ユン」
 哀願してみても、既にユンには届かない。かえって明姫の抵抗は彼の情欲を煽るだけなのだが、明姫はそんなことは知らない。
 上衣を剥ぎ取られた下は、胸に幾重にも布を巻いただけの半裸に近い姿だ。小柄で細身な割に、胸は豊かな彼女は、下からこんもりとした膨らみが布を押し上げている。
 ユンの鼻息が更に荒く、呼吸が速くなった。
「あっ」
 ユンが胸に巻いた布をするすると解いてゆく。
「ユン―」
 怯えて泣きじゃくる明姫には構わず、ユンは布を解き終えると、うっとりとした表情で呟いた。
「綺麗だ、明姫」
 その視線は明姫の波打つ乳房に注がれている。朱鷺色の可憐な胸の蕾が春の夜気に晒され、つんと立ち上がっていた。
 四月の末とはいえ、夜はまだ冷える。しかも、恐怖に震えている彼女にしてみれば、堪ったものではない。ユンの大きな手のひらがそっと震える乳房を包み込む。
「思ったとおりだ、物凄くやわらかい」
 力を込めて揉まれ、明姫は衝撃と恐怖に瞳を見開いた。涙の幕で曇った瞳に天井がぼやけて見える。
 所詮、ユンも世の男たちと変わらなかった。なのに、自分は彼だけは違うと信じて、のこのこと夜半に人気のない殿舎に来て彼と二人きりになったのだ。つくづく我が身の幼さと愚かさが呪わしい。
 最早、抵抗する気力もない。明姫が抵抗を止めたのを勘違いしたのか、彼は好きなように乳房を弄んでいる。揉んだり、先端をキュッと指で捏ね回されたりしている。
 だが、次の瞬間、流石に彼女もハッとなった。乳房の突起がすっぽりと生暖かい口中に含まれたのだ。
「いやーっ」
 明姫のささやかな抵抗がまた始まった。クチュクチュと音を立てて乳房を吸われている中に、下半身にこれまで感じたことのない妖しい感覚が溜まってきた。何だろう、気持ち良いわけではなかったが、切ないような疼くような未知のこの感覚は。
 自然に明姫の息が荒くなり、桜色の唇からは、あえかな声が洩れ始める。
「明姫も感じてきたのだな」
 ユンは何故か愉しげに言う。やっと彼の顔が胸から離れたので、明姫は心から安堵した。これで辛い責め苦から解放されるのだと思った。明姫は彼が彼女の足先に移動したのも知らずに、ただ疲れ果て、ぼんやりと虚ろなまなざしを天井に投げていたのである。
 が、突如としてチマを大きく捲られて、明姫は大きく身体を震わせた。今度は何をされるのだろう?
 ただただ怯えだけが彼女を支配し、明姫は慌てて上半身を起こそうとする。しかし、ユンは無情にもそんな明姫を力をかけて抑え込んだ。
「?」
 最初は何をされているのか判らなかった。チマの下に履いているズボンを引き抜かれ、下履きまで脱がされた時、初めて我に返った。
「脚を開くんだ、明姫」
 傲岸に命じられて、従えるはずもない。明姫がかえって頑なに脚をすり合わせ閉じようとしたのに怒ったのか、ユンは猛烈な力で閉じた両脚を開かせた。
 股が裂けるのではないかと思うほどの激痛が両脚の付け根に走る。
「い、痛い―っ」
 明姫は絶叫し、あまりの痛みに大粒の涙を零した。
 あまりに酷い扱いだった。妓楼に売られた遊女が初めて客を取って女になることを水揚げと呼ぶそうだ。だが、その水揚げですら、今夜のユンの扱いよりは優しいのではないかと思える―それほどまでに手酷いものだ。
 しかも、脹ら脛はまだ鞭打たれた傷が残っている。一部は化膿しているところもあった。そこを持って、これ以上はないというほど両脚を開かされたものだから、その痛みは尋常ではなかった。
 明姫は首を振りながら泣いた。
「痛い、痛い―」
「明姫?」
 ユンが眼を見開いた。その瞳に宿っていた凶暴な光が俄に揺らぎ始め、直に消えた。代わりに不安そうな表情が端正な顔に浮かぶ。
「明姫、いかがした?」
「脚が痛い」
 明姫は泣いて訴える。思いきり開かされた太腿の付け根もむろん痛みを訴えていたけれど、今はむしろ鞭打たれた傷の方が痛かった。
「―」
 明姫の脚を改めて見つめ、ユンは息を呑んだ。白い脹ら脛には紅いみみず腫れが走り、所々膿んでいる。
「そなた、どうして」
 問いかけて、言葉を飲み込む。何が原因で鞭打たれたかはすぐに彼にも理解できた。
「うっ、うっく」
 明姫は身を震わせながら泣きじゃくっている。
「明姫」
 名を呼んで近づいても、明姫は怯えて後ずさるばかりだ。
「済まない、本当に済まない。何と言って詫びて良いか―詫びて済むものではないと判っているが。許して欲しい」