もう一度恋をしよう
記憶
どうして佐々木が隣で寝ている?
それにこの部屋は?どこだここ?
不思議なことに、昨夜何があったのか俺は全く思い出せないでいた。
原因は恐らく、酒。
あまり酒に強くない俺は、少しでも飲みすぎると途端に記憶を無くす。
おかげで何度も一緒に飲んだ人には迷惑をかけまくってきたし、床で目を覚ましたり、トイレに嘔吐物がぶちまけてあっても、それはいつものことなのでいい加減慣れた。
が、このパターンはさすがに初めてだ。
とりあえず状況をきちんと把握しよう。
身体をゆっくりと起こして辺りを見回した。
見慣れぬ天井には常夜灯のオレンジ色が淡く広がっている。
シックな茶色のカーテンの隙間から漏れる光が、既に太陽が昇りつつあることを教えてくれた。
ベッド付近には昨日身につけていた自分の衣服が散らばっている・・・・ん?
「ちょっとまて、何で俺裸なんだ!」
なるほど、シーツの肌触りがいつもと違うなんてわかるわけだ。
服を着ていたらシーツの感触なんてわかるわけない。
チラッと横目で寝ている佐々木を見ると、どうやらヤツも服を見にまとってはいないようだ。
だが、そうなるとより一層わけが分からない。
大の大人が、よりにもよって男ふたりで、互いに裸のまま一緒のベッドで仲良く寝るなど・・・
思い当たるのはたったひとつ。
昨晩、互いの身体を貪り合った。
何よりの証拠は自分の体の異常な倦怠感、そして腰の妙な違和感。
これってもう、ソウイウコトでしょ。
「マジかよ・・・」
小声で溜息を漏らしてみるも、そんなことしたって現状が変わるわけでもない。
激しい後悔と絶望感には見ないフリをして、そもそもどういう経緯でこんな状況に至ったのかを考えはじめた。
確か昨日の夕方、仕事でヘマをやらかして、ひとりやけ酒でもしようと居酒屋に入った。
次の日が休みなのをいいことに、いつもは飲まない焼酎を馬鹿みたいに注文して。
居酒屋のおっちゃんに「兄さん、飲みすぎじゃないか?」なんて声を掛けられたとこまでは覚えている。
そこから先はぷっつりと記憶がなく、そして今。
一体どこで佐々木と会って、どういった経緯でここまでついてきて、そしてこんな状況に陥ってしまったのか。
相変わらず寝こけているヤツの顔をじっと見た。
スッと通った鼻すじや薄い唇には高校時代の佐々木の面影があるが、あの時みたいな幼さは微塵もなく、すっかり精悍な顔つきになっている。
顎のラインや首筋の筋肉はあのときの佐々木からは到底かけ離れていて、なんだか別人のように感じた。
高校卒業して以来ずっと会っていなかったのだ、そりゃあ10年も経てば成長するに決まってる。
だからって
「こんな再会はないんじゃないの・・・?」
小声で話しかけてみるが佐々木が起きる気配は一向にない。
思えばコイツは、高校のときから一度寝るとなかなか起きないヤツだった。
身体を重ねた翌日も、顔を合わせるのが妙に気まずくて、佐々木が寝こけてるのをいいことに、朝こっそりと帰宅していたことを思い出す。
俺は静かにベッドを抜け出して、散らかった衣服を身につけた。
やはり身体が妙に重い。
荷物もまとめて、あのときみたいにこっそり帰宅しようとドアに手をかける。
でも。
でも、このままでいいはずがない。
俺は何も知らない、こんなスッキリしないままなんて嫌だ。
こうやってあの時みたいに、見て見ぬフリをするのは、コイツから逃げるのはもう嫌だ。
鞄の中からメモ用紙とペンを取り出し、自分の連絡先と名前を書いて紙を破った。
絶対に見るであろうヤツの荷物の上にそっとその紙を置く。
そのまま俺は部屋を出た。