エイユウの話~狭間~
それが彼の理由だった・1
初めて金色を見たあの時、俺は久々に来るというある人を待っているところだった。
話はその一年ほど前にさかのぼる。明(みん)の魔術を習って二ヶ月。ある程度のことが出来るようになったころだ。そしてちょうど専攻の第一回順位決めテストも終わったころになる。一回目のテストには、何を操れるのか、という点だけで成績が決められるといっても過言じゃない不公平さがある。案の定、俺は平々凡々な成績に終わっていた。水を操れる輩なんて、五人に一人はいるレベルだしな。
そしてその日もそこそこ広い中庭に、俺は今も変わらず寝転がっていた。時期としては、緑色の草木が生い茂っている季節だ。空も青々としていて、それでも日光が結構暑い。風がなかったら厳しいかなぁと、暢気(のんき)に思うような天気でもある。
「キサカー!次授業だぞ」
当時、俺にも友達というものがいて、でもやっぱり一人でいる時間のほうが多かった。もしかしたら、友人というよりも、管理人や世話役と言ったほうが妥当な相手だったのかも知れない。迷惑をかけている自覚はあったが、申し訳ないと思う気持ちは生まれなかったのも事実だ。一人のほうが気軽だし、わらわらと群れていることを美徳とも思わなかった。もちろんそれを否定することもない。ただ、俺の馬にあわないってだけだ。
寝転がったまま動かない俺を、そいつが覗き込んできた。今回の授業内容が書かれたプリントを人の顔の上でひらつかせる。毎回授業の最後に配られる、次回の試合内容が書かれているプリントだ。俺はそれを持っていない。
「今日は最高術師の先輩の魔術使いを、この目で見れる日だぞ。お前は出てなかったから知らないだろうけど」
さすがに俺も天才じゃない。だから、キースみたいに一年から最高術師だったわけじゃない。まあ、当時の最高術師たちは、例年に類を見ないほどの高成績集団だったから、当たり前なんだけどな。かわりにと言っちゃなんだけど、憧れる人が大勢いた。俺が最高術師になったときとの、最も大きな違いだろう。
渋々身を起こすと、そいつは走って去っていった。あいつにはあいつのチームってのがあって、俺ばかりにかまけている暇はない。が、そいつがいなくなったのを確認すると、俺は再びごろんと横になった。行く義理もないし、行かなかったところであいつが責められることもない。つかず離れずの関係ってのは、そういう利点がある。
再び目をつむった俺の上に、何かの陰がかかる。
作品名:エイユウの話~狭間~ 作家名:神田 諷