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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
novelistID. 31338
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クロス 完全版

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 プロローグ WELCOME TO THE BLACK PARADE

 深夜、メインストリートのマルティーノ通りの東はずれに交差するプロント通りは、街灯も少なく薄暗かった。そんな中、二人の警官が巡回に当たっていた。
「こうも暗いとおっかねぇったら。さっさとマルティーノ通りに出ちまおうぜ」
 一人の警官が独りごちた。
「警官がビビッてちゃ話にならんだろ。巡回中だぞ」
「とはいえさぁ、夜は冷えるし。ちょっくら先にマルティーノ通りに出て、コーヒーでも買ってくらぁ」
「おいおい。行くならさっさと行ってこいよ」
「アイサー。二人分のブラックのホット、買い出しに行ってまいります」
 言うが早いか、もう駆け出していた。
「全くボーナムの奴、怖気づきやがって。にしても冷えるな、今日は」
 もう一人の警官、ブロッキーは塀にもたれて手に息を吐きかけた。もう冬に入った今日は、雪こそ降りはしないが相当冷えていた。ぼんやりと月を見ながら待っていると、来た道の方角から足音が聞こえてきた。目をやると、全身黒ずくめの背の高い男が立っていた。不審に思い、職務質問をする。
「こんばんは。今日は冷えますね。こんな所で何をされているのですか」
「人狩り(マンハント)」
「マンハント? おかしなコトをおっしゃいますね」
「拳銃は持っているか。どちらが早いか勝負しようじゃないか」
「警官ですので持ってはおりますが、勝負とは一体」
「コインを投げる。落ちたら開始だ。いくぞ」
 男はおもむろに十バックス硬貨を取り出して放り投げた。
「ちょっと……、本官はまだ……」
 言い終わる前にコインは落ち、男の拳銃が火を噴く。二発被弾して前のめりに倒れ込む。笑いながら更に二発撃ち込んだ。
「ははは、なんと不甲斐ない。警官とは名ばかりじゃないか。あははははは」
 その時、銃声を聞きつけたボーナムが駆け付けてきた。男はすぐさま来た道を引き返して闇夜に紛れた。ボーナムはコーヒーを取り落して相棒に駆け寄る。
「ブロッキー! ブロッキー!! 返事をしてくれ。くそっ」
 急いで無線をオンにする。
「コードレッド、コードレッド! プロント通りで銃撃事件発生。被害者ジェレミー・ブロッキー巡査。至急、救急車の手配と応援を頼む。繰り返す。コードレッド、コードレッド……」
 ボーナムの声が虚しく響いた。

 翌朝定時にホランド郡警察署で捜査会議が開かれた。本部長、刑事部長、殺人課課長お揃いでお出ましだ。会議の進行役はハワード・チェイス一係係長である。
「早速会議を始める。昨夜二件目の銃撃事件が起きた。二件とも被害者は警官だ。今分かっているコトを報告してくれ」
「はい。昨夜の一件から。ジェレミー・ブロッキー巡査は巡回中、一人になったところを襲われています。相棒のテレンス・ボーナム巡査の話によると、その間数分とのコトです。ブロッキー巡査は四発被弾し、いずれも急所である両胸、後頭部、腰椎に受けており、ほぼ即死でした」
「次、鑑識」
「ブロッキー巡査はまず両胸を撃たれて倒れた後、後頭部と腰椎を撃たれたと見て、ほぼ間違いありません。弾道検査の結果、犯人は二丁拳銃(トゥーハンド)であるコトが判明しております。なお薬莢は発見されておりませんが、口径は四十です」
「次、二件の共通点」
「第一の被害者ニコラス・コズロウスキー巡査、第二の被害者ジェレミー・ブロッキー巡査とも、一人のところを襲われています。コズロウスキー巡査は帰宅途中、ブロッキー巡査は巡回中と違いはありますが。それと二人とも暗い夜道を歩いていたコト。前者は北はずれのカッシーニ通り、後者は東はずれのプロント通り。なんと言っても特筆すべきは銃創です。両胸、後頭部、腰椎の計四か所を同じ手順で撃たれています。ちょうど十字(クロス)状の銃創です。あと両方の現場に十バックス硬貨が一枚落ちていました」
「つまり決闘した結果というわけかね?」
「恐らくは。推測の域は出ませんが、そう考え得る状況です」
「分かった。他には?」
「今のところ二件とも目撃者はおりません」
「そうか。今回『クロス銃撃事件』として対策本部を立ち上げる。犯人のコードネームはクロス。一連の事件に関しては箝口令を敷く。一切合切、部外秘だ。捜査態勢は常に二人組(ツーマンセル)で行うコト。更に無線機と拳銃を携行するコト。聞き込み、巡回の強化、犯人の洗い出し、特に警察に怨みのある者の洗い出しに努めてくれ。以上だ。あぁ、ボーナム巡査は本日中に始末書を上げて自宅謹慎だ。改めて、以上。解散」
 ボーナム巡査は始終うなだれていた。一匹狼の刑事、ロン・カーターは肩を叩いてやった。
「必ず仇はとってやるから、先走った真似だけはすんなよ。始末書上げてゆっくりしてこい」
「……はい……」
 消え入りそうな声で答えるとのろのろと立ち上がり、一礼してフラリフラリと会議室を出ていく。
「さて、どうしたものかな」
 ロンは独りごちながら伸びをした。これで終わるとは思えない。警察への怨みというが、決闘という手段は不自然ではないだろうか。ただ単に決闘したいだけでやっているのなら、まだまだ被害者は増えるだろう。拳銃を持っているだけで狙われたなら、この捜査方針はどうだろうか。被害者を増やすだけかもしれない。たとえ持っていなくても、警官は持っているものと思われているだろうから、狙われるのには違いないか。
「堂々巡りだな」
 そういえばツーマンセルと言われたが、オレの相棒は誰だ。また一人で勝手にしろってコトだな、たぶん。


        TABLE IN THE SUN

 マルティーノ通りの西はずれのレオナルド通りと、南に二本挟んだバッカス通りとが交差する角に古い洋館がある。家主のレーマンが改築して、賃貸住宅として貸している洋館だ。オール4LDKの風呂付きである。その五〇二号室にオール・トレード商会はある。オール・トレード、つまりはなんでも屋だ。住人はアレックス・ウィンタースとビリー・トマス・シュナイダー。よく間違われるが、栗色の短髪で一七八センチのアレックスは女だ。元特殊部隊大佐の医学博士で、荒事担当。ビリーは金髪(ブロンド)にグリーンアイズの元アンドロイドのバイオロイドで、一七五センチの男、情報担当である。
 バイオロイドとはアンドロイドに人工臓器を備えたもので、食事も排泄もできる。但しアレックスの設定により、アルコールだけは一切受け付けないようにされている。これはアレックスが大酒吞みだからだ。昨夜もバッカス通りの酒場ディータで痛飲し、マスターのボギーから連れ帰るよう連絡があった。ビリーは文句たらたらで家まで運んだ。バイオロイドなので軽々と担いで。バッカス通りはその名の通り酒屋やバーにパブが多く軒を連ねている。
 ビリーは朝食を作り、アレックスを叩き起こしに行った。
「さぁさ、朝ですよ。酔いは当然醒めてますよね」
「う~ん、まだ寝させて」
「駄目です。一日の始まりは朝食からです。抜いてはいけません」
「頑固頭。融通利かずめ」
「そういう設定なんです。諦めて起きて下さい」
「はいはい。起きますよ。起きればいいんでしょ」
作品名:クロス 完全版 作家名:飛鳥川 葵