小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

僕のリンゴ

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

その間も「大丈夫」や「安心して。もう帰るからね」と母親の優しい声が聞こえていた。

玄関の扉が開き母親が帰ってきた。兄弟は飛びついて泣きじゃくった。
「怖かったあああああ」
「かあさあああああん」
頭を優しく撫でられる。その手の温もりが今の兄弟には何よりも幸せに感じた。
だが問題はまだ残っていた。あの部屋に、男が、死体が残っているはずなのだ。
母親は兄弟を優しく離すと、少し屈んでカズトの目線に合わせた。
「その死んでる人はどこにいるの?」
あっち、と死体のある部屋の方を指差した。
躊躇なく部屋に入ろうとする母親の背中を、ショウタが引っ張った。
「かーさんが危ないよ……」
母親は優しい笑みでショウタの頭を撫で、「大丈夫よ」と言うと男の側に立った。
男はやはり死んでいるようだった。
「本当に死んでるわ。なぜかしら」
母親はポケットから携帯を取り出した。

その後は忙しかった。警察が来て事情を聞かれる。それはまだ小学生である兄弟には大きな負担だった。警察のおじさんは口調こそ優しいものの、目は笑っていなかった。まるで自分たちが悪い人みたいだ、とカズトは思った。

それから三日間、学校を休まされ長々と話をさせられた。カズトもショウタも警察のおじさんの言っている意味がいまいち解らなかった。
母親と警察の話を盗み聞きもした。
どうやら男は毒を飲んで死んだらしい。
でもなぜ勝手に人の家に入ったうえで毒を飲んだのか、それが解らなかった。
「窓は開けっ放しにしてはいけないよ。きっと窓から入ったんだろうねぇ」と警察のおじさんは言った。もう二度と窓なんか開けるものか、と兄弟は胸に強く誓った。


「大変だったねえ」
リンゴを一人一人に配りながら祖母は呟いた。
「ほんと、大変でしたよ。何を言っても疑われるんですもの」
愚痴をこぼす母親の隣でカズトはリンゴにかぶりついた。ショウタもうさぎ型に切られたリンゴを口に運ぶ。
「このリンゴは特別なのよ。だからほかの人にあげちゃ駄目だったのに……」
カズトは祖母の呟きを聞き逃さなかった。
「なんで?このリンゴ普通だよ?」
カズトは言った。
「そうかい。そうだといいねえ」
その顔は、いつもの優しい祖母ではなかった。
「おばあちゃ……」
急に世界が回りだす。祖母の顔も、母親の顔も歪んでいく。隣に座っていたはずのショウタはいつの間にか横になっていた。
息が苦しい。
どうして
カズトは自分の身に何が起きたのか、誰がリンゴを食べたのか、なぜ男が死んでいたのか、全てを理解した。
遠のいていく意識の中で、
母親の叫び声を聞いた。
祖母は
笑っていた。
作品名:僕のリンゴ 作家名:冷泉