大嫌いな貴方へ
気分の良い帰り道。けれど家が隣同士という宿命ゆえ、勇太と並んで勝が歩くことは避けられなかった。
別に遠回りをするなり、歩く速度を落すなりしてもいいのだ。だがどうして相手のために自分がそこまでしなければならないのか、という意識が二人を並んで歩かせた。
「……はぁー。ほんっと、お前とじゃなきゃぶっちぎりの優勝だったのになー」
結局最後の最後で勝は負けた。友人たちが団結してトップを独走していた勝を集中で狙ったのだ。あれを喰らってはひとたまりも無い。
「なんだよ。お前だって最後は駄目だったろ」
「それまでは全部一位だったし、そもそも最後のも二位だったろ。あんだけ喰らって」
「はっ、だからって俺のせいにするのかよ。最後のレースは俺、なんもやって無いし」
「それまでの経緯を言ってるんだろうが。ゲームヘタクソなくせにしゃしゃり出やがって」
売り言葉に買い言葉。お互いいまさらいってもどうにもなら無いと知っているくせに、なぜだか止まらなかった。
「っていうかさぁ、オレのアドバイスのおかげで三位に上がれたんだろ?なんか言うこと無いわけ」
「い、言うことって……」
勇太だってわかっている。ありがとう、とか助かった、とかそこら辺だ。
けれどどうしても恥ずかしく、素直に口にすることが出来ない。その代わりに最悪な悪態が口をついて出た。
「お、お前なんかいなくってもぜんぜん大丈夫だったもん……!」
「は?」
冷たい冷たい眼差しが勇太に突き刺さる。思わず足を止めてしまった勇太と、数歩先でやはり足を止めた勝。
「なにお前。最悪、ホント性格悪い」
「お前に、言われたくない」
「……も、いい。お前と一緒の空気も吸いたくないし。すげーやな気分になる」
「っ!!」
俺も嫌だよ、お前なんかと一緒にいたって楽しくないし嫌な気持ちしかしない。
そう叫んでしまえと頭は告げていたけれど、それよりも背を向けられた衝撃のほうが大きかった。今の勝と小さい頃の勝の姿がダブる。
────『じゃ、ゆただけそこにいろ!おれはいくからな』
行かないでといったのに。足が痛くて動けなかったから、必死にその腕を掴んで追いすがった。けれど彼は腕を振り払っていってしまったのだ。
振り払われた衝撃で怪我をした自分を放って。
あの日と同じだ。勝は振り返らない。一人で帰っていってしまう。
(また裏切られた)
最近は我慢できていたのに。それでもあの日のことを思い出すと未だに泣いてしまうのだ。
勝の姿が完全に見えなくなってから、勇太はこっそり道の端に寄って小さく嗚咽を零した。
「っく、……ぅ、まさ…るの、ばかぁ」
ばか、ばか。勝なんて嫌いだ。大嫌いだ。いつだって酷いことを言う。いつだって自分を置いていく。
────でも、こんな風に喧嘩しか出来ない俺も大嫌い。