流れ星のタンゴ《Part.2》
『第六場』
タンゴバーで。薄暗闇の中、何組かのカップルが踊っている。
バーカウンターの後ろでは菊池が客のためにカクテルを準備している。
貞子が時折踊り手たちを注意しながら行ったり来たりしている。
貞子 (年配の踊り手に近づき)そうそう、桜井さん、ガンチョ!
ガンチョ!大場さんの足の真ん中... 入って入って…
そうそう… 頑張ってね!左足…
桜井 ちょっとごめんね、大場さん。今入るから…
貞子 もっと… もっと… 桜井さん!力を出して…
桜井 力はいいんだけど、もう限界だよー!あ, いたっ!
(脇腹の辺りを押さえながら屈みこむ)
大場 大丈夫?桜井さん?どうしたの?
桜井 うーまたか… 腰が痛くなっちゃった!困っちゃうな!
大場はテーブルのところに桜井を連れて行き座るのに手を貸す。
隣のテーブルでは二人の女性が低い声で話をしている。
女A 菊池先生って素敵よね。素敵だわ、背が高くって
ハンサムね?
女B ほんとね、目が大きくって素晴らしい人…
女A 先生の燃えるような瞳… あんな熱い眼で見られたら
鳥肌が立っちゃうわ。
女B 私も…
貞子 (彼女たちに飲み物を運んでくる)どうぞ、ごゆっくり
してらしてね。(バーカウンターに戻る)
女A 貞子さんも素敵ね、今日はまた格別に!
あの髪形、あれなによ?
女B うちの孫ったらあれ見て「カラスの巣」って言ったわよ!
女A (笑)あ、そう、ほんとに!それにあの白いチュニック…
あれ着たら貞子さんまた特別きれい。
女B ほんと、いつだったかね、うちの孫が悲鳴あげながら
帰って来たから、沙弥ちゃんどうしたのって聞いたらさ、
かわいそうにすっかり震えて、「おばあちゃん!外に貞子の
お化けがいた!」っていうのよ!
女A やぁね!小学校の子供たちはみんなあのお化け、
怖がってるのよね、うちの姪もそうよ。
貞子のお化け、あぁこわ。
貞子 (カウンターで菊池に近づく)ねぇマスター、
フランソワーズさん今日いらっしゃるかしら?
菊池 さぁ?わかんないな。もう遅いし、昨日は彼女エリーズと
一緒に七時ころ来たよ。
貞子 そうね、エリーズちゃんってかわいいわよね。
昨日あの子ここでぬいぐるみと踊っていたわよ、
何て名前だっけ、あのぬいぐるみ? あ、そうだ、
フモフモだった。かわいいわね。
貞子は、あいたグラスを下げに先ほどの女たちの前を通る。
貞子 お二人とも今度、どなたかパートナーをダンスに誘って
いらしてよ!(イノシシの唸り声みたいな笑い声をあげる)
女A 貞子さんったらかわいらしいこと!たぶんあの愛らしい
笑い方で菊池先生を魅了して結婚までする気に
させちゃったのね?
女B 笑い方のせいかどうか知らないけどさ、でも彼女踊る
ときに短いドレス着ると、長くて筋肉質の脚がとっても
きれいなのよ、ほんとに。
女A へぇ、そうなの?じゃ、菊池先生は貞子さんと
結婚したんじゃなくって、貞子さんの素敵な脚と
結婚したのね。
女B そう思う?そうね、男なんて馬鹿なのよ!私たち女って
のは、男の足がきれいだからなんて理由で結婚したり
しないものね。
貞子 (ひと組の踊り手に向かって)サリーダ、オチョ、ヒロ!
阿部さん、もっと森さんに近づいて! 太ももを撫でるの
躊躇しないで!今晩はかまわないのよ!
森 近いんだけど…
藤原とフランソワーズがバーの前を通る。
フランソワーズ ほら藤原さん、ここよ。(藤原の袖をひっぱる)
来て、菊池先生をご紹介するわね。
アルゼンチンタンゴってどんなふうに踊るのか
見せてあげる。
藤原 君の娘さんは?今一人なの?もう遅いんじゃない…
フランソワーズ 一人じゃないわよ、子豚さんと一緒。
藤原 子豚さん???誰それ?子豚さんって、
ぬいぐるみかなにか?
フランソワーズ ぬいぐるみ?違うわよ、子豚さんって私の友達、
東京に来たときはいっつもエリーズと彼女の家に
泊めさせてもらうの。
藤原 お友達、子豚さんっていうの? Miss Pig ?おかしいな!
そんな名前の人は日本に居ないよ!もしかして、
久保田さんじゃないの?
フランソワーズ ええ、そうよ!久保田さん!エリーズがいつも
子豚さんって呼んでいるのよ。私は彼女のこと
アカリって呼んでいるわ。
二人はバーに入る。フランソワーズは藤原を菊池と貞子に紹介する。
菊池は二人にウィスキーと白ワインを出す。テーブルについたとき、
フランソワーズはワインをドレスにぶちまける。
フランソワーズ (勝ち誇って)ほらね、みた?藤原さん、私終わってる
わね。 信じられない!タンゴを踊りに来たのに頭の中、
すっかり霧がかかっちゃった!
もういい、さぁ踊りましょう?
藤原はウィスキーを飲んでせき込み、手を激しく振る。
藤原 やだよ!勘弁して!フランソワーズ、僕には無理だって!
ワルツもすずめ踊りも踊ったこと無いんだから!タンゴ?
君、僕にアルゼンチン・タンゴを踊れっての?
絶対やだ!!!
藤原は椅子に深く沈みこみ、 念のためテーブルの端をギュッとつかむ。
貞子 (脇を通りながら)藤原さん、しっかりテーブルに
つかまってないとフランソワーズにダンスフロアの
真ん中に連れていかれちゃうわよ!何日か前、
木村さんっていうあなたみたいな初心者も彼女に
タンゴバーで。薄暗闇の中、何組かのカップルが踊っている。
バーカウンターの後ろでは菊池が客のためにカクテルを準備している。
貞子が時折踊り手たちを注意しながら行ったり来たりしている。
貞子 (年配の踊り手に近づき)そうそう、桜井さん、ガンチョ!
ガンチョ!大場さんの足の真ん中... 入って入って…
そうそう… 頑張ってね!左足…
桜井 ちょっとごめんね、大場さん。今入るから…
貞子 もっと… もっと… 桜井さん!力を出して…
桜井 力はいいんだけど、もう限界だよー!あ, いたっ!
(脇腹の辺りを押さえながら屈みこむ)
大場 大丈夫?桜井さん?どうしたの?
桜井 うーまたか… 腰が痛くなっちゃった!困っちゃうな!
大場はテーブルのところに桜井を連れて行き座るのに手を貸す。
隣のテーブルでは二人の女性が低い声で話をしている。
女A 菊池先生って素敵よね。素敵だわ、背が高くって
ハンサムね?
女B ほんとね、目が大きくって素晴らしい人…
女A 先生の燃えるような瞳… あんな熱い眼で見られたら
鳥肌が立っちゃうわ。
女B 私も…
貞子 (彼女たちに飲み物を運んでくる)どうぞ、ごゆっくり
してらしてね。(バーカウンターに戻る)
女A 貞子さんも素敵ね、今日はまた格別に!
あの髪形、あれなによ?
女B うちの孫ったらあれ見て「カラスの巣」って言ったわよ!
女A (笑)あ、そう、ほんとに!それにあの白いチュニック…
あれ着たら貞子さんまた特別きれい。
女B ほんと、いつだったかね、うちの孫が悲鳴あげながら
帰って来たから、沙弥ちゃんどうしたのって聞いたらさ、
かわいそうにすっかり震えて、「おばあちゃん!外に貞子の
お化けがいた!」っていうのよ!
女A やぁね!小学校の子供たちはみんなあのお化け、
怖がってるのよね、うちの姪もそうよ。
貞子のお化け、あぁこわ。
貞子 (カウンターで菊池に近づく)ねぇマスター、
フランソワーズさん今日いらっしゃるかしら?
菊池 さぁ?わかんないな。もう遅いし、昨日は彼女エリーズと
一緒に七時ころ来たよ。
貞子 そうね、エリーズちゃんってかわいいわよね。
昨日あの子ここでぬいぐるみと踊っていたわよ、
何て名前だっけ、あのぬいぐるみ? あ、そうだ、
フモフモだった。かわいいわね。
貞子は、あいたグラスを下げに先ほどの女たちの前を通る。
貞子 お二人とも今度、どなたかパートナーをダンスに誘って
いらしてよ!(イノシシの唸り声みたいな笑い声をあげる)
女A 貞子さんったらかわいらしいこと!たぶんあの愛らしい
笑い方で菊池先生を魅了して結婚までする気に
させちゃったのね?
女B 笑い方のせいかどうか知らないけどさ、でも彼女踊る
ときに短いドレス着ると、長くて筋肉質の脚がとっても
きれいなのよ、ほんとに。
女A へぇ、そうなの?じゃ、菊池先生は貞子さんと
結婚したんじゃなくって、貞子さんの素敵な脚と
結婚したのね。
女B そう思う?そうね、男なんて馬鹿なのよ!私たち女って
のは、男の足がきれいだからなんて理由で結婚したり
しないものね。
貞子 (ひと組の踊り手に向かって)サリーダ、オチョ、ヒロ!
阿部さん、もっと森さんに近づいて! 太ももを撫でるの
躊躇しないで!今晩はかまわないのよ!
森 近いんだけど…
藤原とフランソワーズがバーの前を通る。
フランソワーズ ほら藤原さん、ここよ。(藤原の袖をひっぱる)
来て、菊池先生をご紹介するわね。
アルゼンチンタンゴってどんなふうに踊るのか
見せてあげる。
藤原 君の娘さんは?今一人なの?もう遅いんじゃない…
フランソワーズ 一人じゃないわよ、子豚さんと一緒。
藤原 子豚さん???誰それ?子豚さんって、
ぬいぐるみかなにか?
フランソワーズ ぬいぐるみ?違うわよ、子豚さんって私の友達、
東京に来たときはいっつもエリーズと彼女の家に
泊めさせてもらうの。
藤原 お友達、子豚さんっていうの? Miss Pig ?おかしいな!
そんな名前の人は日本に居ないよ!もしかして、
久保田さんじゃないの?
フランソワーズ ええ、そうよ!久保田さん!エリーズがいつも
子豚さんって呼んでいるのよ。私は彼女のこと
アカリって呼んでいるわ。
二人はバーに入る。フランソワーズは藤原を菊池と貞子に紹介する。
菊池は二人にウィスキーと白ワインを出す。テーブルについたとき、
フランソワーズはワインをドレスにぶちまける。
フランソワーズ (勝ち誇って)ほらね、みた?藤原さん、私終わってる
わね。 信じられない!タンゴを踊りに来たのに頭の中、
すっかり霧がかかっちゃった!
もういい、さぁ踊りましょう?
藤原はウィスキーを飲んでせき込み、手を激しく振る。
藤原 やだよ!勘弁して!フランソワーズ、僕には無理だって!
ワルツもすずめ踊りも踊ったこと無いんだから!タンゴ?
君、僕にアルゼンチン・タンゴを踊れっての?
絶対やだ!!!
藤原は椅子に深く沈みこみ、 念のためテーブルの端をギュッとつかむ。
貞子 (脇を通りながら)藤原さん、しっかりテーブルに
つかまってないとフランソワーズにダンスフロアの
真ん中に連れていかれちゃうわよ!何日か前、
木村さんっていうあなたみたいな初心者も彼女に
作品名:流れ星のタンゴ《Part.2》 作家名:アッシュ ラリッサ