火付け役は誰だ!
△四番、ボケは火の中水の中▼
「え、と。」
どういう事なんだ?
穂子と話していたら玄関が騒がしかったからドアを開けたら今にも突進しますという体制の女の子が二人。
普通なら「出会い!?ついに俺にも出会いイベント来た感じ!?フラグ乱立ですね分かります!」とかぬか喜びするのだが今はそうは言ってられまい。
なんというか、一人の手に消火器握られてるし、平和的なそんなフラグじゃなさそうだから。
「しまったぁッ!!敵に気づかれた!!どうしよう瑞!?記憶消せば良いかな!無かった事にしてもう一度闇討ちすれば大丈夫?」
「…媛佳…それだと闇討ちとは言えない上に結局無かった事に出来てない…」
「あの…」
「ならどうしよう!このままじゃ私ただのおっちょこちょいよ!クールビューティ媛佳さんじゃない!」
「…クールビューティは少なくとも媛佳には元々…」
「おっと手が滑った。」
目の前でそう言いかけた髪の短い方の女の子に小型消火器が吹き付けられた。
目の前で見ててもいつ出したか分からなかった早業。
というか何なんだよこの二人!夜に来るなら妖精関連じゃな…
「彦彦。」
穂子が服の袖をクイクイ引っ張ってくる。
「どうした?」
「こっちの子、私と同類の臭いがする。」
穂子の指の先には顔を押さえてプルプルしているショートカットの方の少女。
「…え?でもバトルロワイヤルで夜襲は無いってさっき自信満々そうに」
「それはそれこれはこれ。」
「何が何で何が何なんだよ…」
「ともかく、闇討ちだね!さぞ名のあるバディと見た!正々堂々名を名乗りなさい!」
何やら妖精に向かって消火器を連射しているバディに向けて穂子の自信満々のお言葉っておい!
「闇討ちしてきた相手に自己紹介が通じるか!というか闇討ちするやつにまず大した名があるかッ!」
「でも武士道には一騎討ちは名乗りを上げてからやるって書いてあるよ!」
「もはや何年前だよ!日本の文化勘違いしてるだろ!ジャパニーズサムラーイの時代だよそんなん!ほら向こうも呆れて」
「…良かろう、私の名前は覆水媛佳!いざ尋常に闇討ちさせい!」
…………ハイ?
…いや、ないわ、このノリはないわ。
もう一度言うけどないわ、突っ込み追い付かないわ。
「ほら!瑞も名乗りをあげて!あげたら闇討ち出来る!」
「あ!ぼーっとしてないで彦もだよ!早くやらないと負けちゃう!」
ダメだ、もう突っ込む気すら失った。
何に負けるのかとか誰が負けるのかとかそもそも闇討ちってなんだったっけ。
「で、覆水さんは一体なんのご用で?」
なんか名乗りが進んでノリノリになってる穂子と覆水さんの所に割って入る。
「だから闇討ちっていってるでしょう分からないバディね!」
「………、えと、」
「ほら!闇討ちって向こうが言ってるのだから応戦するよ彦!」
「…マジで戦闘?ポコポコパンチ(物理)?」
「そうだよ!だから覚悟決めて彦も応戦!」
「準備などさせない!先手必勝!瑞、行くわよ!」
「…気が進まないけど、お覚悟。」
との声と共に覆水さんと妖精が飛びかかってくる。
「軽い火傷で済むと良いんだが、」
後ろで穂子が「火ガコワクナーイ(色眼鏡)」を掛けていることを確認。
「チャッカマン、ゴー!!」
しかと見よ、この炎の乱舞(往復ビンタ)を!!!
「消火。」
プシューと気の抜けた音と共に吹き付けられる消火器の粉末。
………え、何このあっけないオチ。
「チャッカマン、消火ーーーー!!!!!」
「彦!?諦めが早すぎだよ!?」
いや、唯一の武器一瞬で消されたこの気分、ヒーロー物で強化した主人公にあっさり技を跳ね返された敵幹部の気持ちだ。
「ははははは!おとといきやがれ!火と水は相性が悪いって昔から決まってるの!」
「…媛佳が使ったのは水じゃない…消化剤の粉末。」
「良いの!バトルなんだから勝った者が歴史を変えるのよ!勝った者が正義じゃー!!」
凄い、淀みない、この人。
だけどなんだろう、やり口が汚すぎないだろうか覆水さんとやら、それと被ってた猫剥げてる。
「消火器は万能兵器なんだから!植物も虫もヒトもイチコロよ!」
「もはやそれは消火器じゃない上に色々使い方違う!メインで火を消してくれよ!」
「ほら!ぶつぶつ言ってないで戦う戦う!瑞もついて来て!」
「…ん、ちょっと待って…すぐ行く。」
返事が聞こえたのはちょっと遠く。
相手の妖精、瑞のこの返事を聞いて覆水さんの顔に?が浮かんだ、俺も思った。
さっきから妖精二人はどこへ行った?
という事で先程から静かな我が妖精を読んでみる。
「穂子?お前今どこにいるんだ?」
「彦?ちょっと待ってね、今激戦だから手が離せないの!」
穂子の声は部屋の外、廊下から聞こえた。
激戦だからとは言うものの声は畑で農作業しているおばちゃん並みに緩い、何をしてるんだ?
疑問符を浮かべたまま覆水さんと廊下に出ると、そこでは壮絶な戦
「おりゃー見よこの斬新な砂さばきを!」
「…負けない、水で固めて削り取る作戦…」
「それは卑怯だ!反則だ!」
「…戦術と言ってほしい。」
いつの間にか妖精は壮絶(笑)な棒倒し中。
「「…………………。」」
「あ、彦どうしたの?因みに今激戦中だから私語は厳禁でヨロシクぅ!」
「…媛佳も揃ってどうしたの、決着がついた?」
顔から全ての感情が消えた俺と覆水さんのやった事は一つ。
「「お前らは何をしとるんじゃーーーー!?」」
俺は穂子に色眼鏡を外させ、チャッカマンを突き付け、覆水さんは瑞に消火器を吹き付ける。
「いきなりなんばしよっとね……」
「…いきなり目は良くない…見てしまった天空の城の雷を…」
隅っこで固まってプルプル震える妖精二人、当たり前の罰だ。
「バディが戦ってるのに悠長に棒倒しとは…」
「彦違う!炎のは水が苦手だから力の勝負じゃなくて知能戦に持ち込んだんだよ!どうこの計算されつくした」
カチッ、ちょっと前髪を焦がして差し上げる。
「ひいぎゃああああああ!?何で!?私なんでいきなり生命の危機!?それとだからいつチャッカマン出したのって!」
「分かるだろ!さっきまでさんざん『覚悟』がどうたら言っておきながら何で戦わないんだよ!俺のさっきのチャッカマンの戦いを見れば完璧に不利だったろ!」
「燃え尽きたの?着火だけにぎゃああああああ!!!!」
もう一度着火、今度は大きめに。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!今度はちゃんと戦うから!」
その一言を聞き、やっとため息。
さて、戦うならば相手がどうかと覆水さんを見れば
「分かった?ちゃんと戦う!?」
「…媛佳死んじゃう…これ以上消火器吹き付けられると…私妖精としての不死身、限界突破しちゃう…」
おっと、
慌てて俺の後ろから背伸びしていた穂子の目を隠す。
あの、ちょっと良い子は見ちゃいけません系の光景が行われていた気がしたので。
「…あの?」
「な、戦う!?戦うなら準備万端よ!起きて瑞!寝たら死ぬわよ!」
いや、やめてあげて、瑞さん口から白い粉末漏れてるから、目を覚まそうとして往復ビンタ(物理)とかやめてあげて。
「妖精を寝たら死ぬまで消火器で追い詰めるなよ!」