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瀬間野信平
瀬間野信平
novelistID. 45975
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まだらの菓子

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Ⅱ問題提起



現在時刻は10時30分。
俺はある家の前に立っている。
そしてインターホンを押してから既に10分。
ここまで待たされたならば普通は嫌がらせと思って良い、それ以前に普段の俺なら帰ってるしもしかしたらこいつに相談に来ない。
では何故待つか、理由は簡単。
俺には出来ないことも今待ってる奴には出来るかも知れないある事があるからだ。
しかもその出来ないことのレベルが尋常じゃない、今のところ不可能犯罪だ。
まぁ何が起きたのかは「奴」に詳しく話さないと被害者も報われない、愚痴っぽくならずもう少し待とうと考えた矢先。


正確に飛来したあめ玉が俺の眉間に直撃した。



**まだらの菓子**


報復として地道にインターホンを連打しているとやっと奴がパジャマ姿で玄関から顔を出した。
直後あめ玉の第2射目のご歓迎。
今度は予想していたために難なく掴みとり、紙を剥がして口に投入。
キャラメル、グリコのか。
「…勢いが足りなかったかな、眼球一つもってくつもりだったんだけど?」
「切実に突っ込まさせていただくが、女子高生は普通眼球一つもってくとか言わないし、普通は部屋の窓を開けて外の人にあめ玉豪速球を投てきしない。」
「節分を先取りしてみたのよ。流行の最先端を行く女よ私。」
「…節分はあんなに憎しみを込めてあめ玉を急所に投げつける行事じゃねぇ。」
むしろ普通はほのぼの親子が豆投げ合っているイメージが強い、残念ながらどうしてもあの殺意満載のあめ玉は該当できないだろう。
というかパジャマ姿で玄関先に出てくる奴に流行の最先端行かれたくねぇ…日本の未来が不安になるわ。

「で、お菓子当てられて喜ぶマゾ太の御津君は何の用?私今昼寝の最中で忙しいんだけど?」
「まず今は朝だ、いい加減そのだらけきった生活直せ。それと俺はぶつけられて喜ぶんじゃねぇよ、お菓子もらって喜んでんだよ。」
「…やっぱり変態じゃないと思うんだけど?」
「うるせぇ年中パジャマ女には言われたくない。」
言った瞬間キャラメルが連射されるが受け止めポケットへ直送。

年中パジャマ女こと綾原成実(あやはらなるみ)、俺のお向かいに住む幼なじみ。
怠惰に伸ばし続けている髪は長く、そろそろ腰にいきそうだが十二単でも着るのかと突っ込んではいけない、何しろこやつは怠惰が女子高生の皮を被っている奴なのだから。
俺があくせく受験勉強してるときにこやつは昼寝(朝)ときた、なのに俺と同程度の成績をキープしているところが癪でもある。
それに頭がキレる、きっとマスターである綾原があまりに怠惰なせいで頭がその分頑張っているのだろう。
幼い頃からそれを知っている俺は近いことを理由に謎解きをしてもらったり代わりに綾原の雑用なんかをしてやったりしている関係って訳だ。

そんなパジャマ怠惰探偵綾原はうーんと背伸びしてから俺にこう聞いてきた。
「用件を述べてほしいんだけど?寒いし早く。」
「寒いのはそのパジャマ姿が悪い。…長くなるぞ。」
「じゃやらない。寒い。」
「………商店街のケーキ一個でどうだ。」
「…二個ね、流石話が分かる。」
奴は悪魔のような笑み…ケーキ二個ならまだ安価かと思い直し、話し始めようとすると綾原が遮った。
「御津の家で聞くから、私の部屋より絶対暖房効いてるし。」
「いやでもな…」
「どうせまた『何か』あったんだろうけど、寒かったら私解かない。」
「…怠惰め。」
「女子高生は一概にこんな感じだけど?」
「…全国の女子高生にエクストリーム土下座しとけ。」
「怠惰だから面倒くさい。」
全国の女子高生の皆さん、俺は貴女方がこんなに怠惰でない事を信じています。


**まだらの菓子**


驚いたことに綾原はパジャマを着替えずに小動物のように俺の家へ疾走。
…リスか、あやつは。
まぁ聞いたらきっと「パジャマ着替えるのが面倒」とか言いそうだが。


二階の俺の部屋にはもうリスが着いていた。
…だけなら良いのだが
「おいそこのパジャマ、一つ聞くが…なんで口がドングリ詰め込んだリスみたいに膨らんでるんだ。」
「んうや、へあにあいっあらつくへにおかひのはほがあっはから…(んにゃ、部屋に入ったら机にお菓子の箱があったから…)」
「ならまぁ報酬のケーキは一個無しだな。」
「!?」
「当たり前だろ。もしかしたらケーキ十個ぐらいの値段量パクパク凄い勢いで食いやがって…」
現在日本語が話せないパジャマリス氏は涙目になって首をプルプル振っているがいい気味だとのコメントを送ろう。
「…変態、普通女子が入ってくる前には部屋にお菓子の痕跡すら残さないのが礼儀なのだけれど?」
「どこの奇習かは知らんが俺はその礼儀守れそうにない。」
「日本人として常識では?」
「パジャマのまま道路横切るお前に人としての常識を語ってもらいたくないぞ。」

至近距離で互いに睨みあう。
先に視線を外したのは綾原だった。

「で、その本題というのだけど?」
「ああ、簡潔に話せば…俺の菓子が盗まれた。」


……
………

たっぷり十秒たってから綾原が真顔で一言言った。

「だけ?」
「だけ。」


……
………

「…帰る。」
「待て、菓子食い逃げは許さん。」
再び四つ足歩行で逃走を開始する綾原の襟首を掴む。
「犯人の特定も何もないのは分かってる、というか犯人は一人しかいない。」
「…なら帰るー炬燵ー布団ー床暖房ー!!」
「待て食い逃げ。帰巣本能を発動させる前に話を最後まで聞け。」
襟首を捕まれたまま手足をバタバタする綾原に構わず部屋の真ん中まで引きずり戻す。
「無論犯人は」
「リキの姉だけど?」
「…次そのあだ名で呼んだら報酬無しのタダ働きにするぞ。」
「ともかく、何が疑問なのか分からないのだけど?犯人が割れてて犯行時間は特定出来ない、被害者はマゾもとい功介で容疑者は海外逃亡でしょ。」
功介に呼び名が変わったのは犯人も御津だからか。
いやそれ以前にまず分からない事がある。
「なんで姉の留学知ってんだお前。」
「一週間前車でどこかに送りに行った、それに姉の荷物だけがやたら大きい、大学生、この頃御津家が静か、と来たら留学以外に選択肢は無いのだけど?」

なるほど納得、主に静かという一点だが。

「いや、言う通りなんだが…これは姉には不可能な犯罪なんだ。」
「何故、寝てるときとか外出中とか幾らでも取れるのでは?」

「俺は姉がアメリカ出発するまでの三日間は外出してない。」


……
………
十秒沈黙。

「…睡眠中は?」
「監視カメラ。」


……
………
三十秒沈黙。

「学校は?」
「SECOM、してるから。」


……
………
一分沈黙。

「…久々に御津が本心からバカだと思ったんだけど?」
「磐石の警戒体制と言え。」
累計予算は中々楽しい事になってしまったがお菓子のためだ仕方ない。
「…で、磐石の警戒体制()に姉が引っ掛からなかったから功介氏としては不可能犯罪と?」
「まぁそういう事だ。」
綾原はそれを聞き、俺の顔をちょっと見るとため息をついた。
ほぼ何を考えているかは分かるが最後の確認を一応しておこう。

「…やるか、やらないか。」
「仕方がない。働いたら負けだ、が…」
床に腹這いになり上目遣いにこちらを見ると
作品名:まだらの菓子 作家名:瀬間野信平