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アッシュ ラリッサ
アッシュ ラリッサ
novelistID. 46007
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流れ星のタンゴ《Part.1》

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 携帯を耳に当て、もう一方の手で、フランソワーズを野菜と果物の
 店へと手招きする。

藤原      もしもし。どうしたの?遅くまで忙しいの?何か急用?
        じゃぁ…明日また電話するから…はい…

 藤原は、フランソワーズに陳列棚のスイカと大根を見せる。

フランソワーズ   すいかが大好き!I like it !
         But the... the… daikon, non, non, I don’t …
         Je ne mange jamais …Ja-mais !(ジャメ)
         《大根は絶対食べません!絶対!》

藤原       あぁ、そう、だめ…大根は、だめ。
         フランス語と日本語は、すごく似ているね?

フランソワーズ  (寒さに縮こまる)えぇ、でも…フルア !

藤原       フルア?...震える? Oh, I understand ! Are you cold ?
         【あ、分かった!寒いの?】 喫茶店に入ろう!

フランソワーズ (笑って挨拶をするように手を振りながら)ハロー! ハロー !

  二人は角の喫茶店に入り、テーブルにつく。

フランソワーズ  Here OK ? Ça va (サバ ) ? 《大丈夫ですか?》

藤原       鯖?No, no, there is no 鯖!No 鰯!No 鮪! No fish !
         Only coffee or tea.
         【鯖?いえ鯖も鰯も鮪もないですよ!コーヒーか紅茶です。】

フランソワーズ (賢明に) そうですか、わかったわ!
         No サバ... No fish... I want a cup of tea, please.
         《じゃ、お茶を一杯頂くわ》

藤原       はい、Mademoiselle ? Madame ?《お嬢さん?奥さん?》

フランソワーズ   I am divorced. But I have a little daughter.
          What about you, sir ?
         《私、離婚したんです。でも小さい娘が一人います。
          あなたは?》

藤原       Me too, I am divorced. But I have a 19 years old
         daughter, Madame.
         【僕も、離婚しました。
         僕にも娘がいますがうちのは十九歳です、奥さん】

『第二場』

 喫茶店が暗闇に消える。フラメンコのリズムのギターが大きな音で
 はっきりときこえてくる。一人のギタリスト、 続いて体格の良い
 五十がらみのスペイン人女性と、長い髪の若いフラメンコダンサーが
 現れる。長い髪の女がフラメンコを踊り始めるが、すぐに絶望的な様子で
 踊りをやめる。

ひかり      だめ、うまくできないわ。コンチータ先生、日本ではこんなに
         露骨に感情を表現するってことないのよ。文化の違いなの。
         ご存知でしょう?

コンチータ    あらら、おちびさん、まるで仔牛みたいな優しい信じやすい目
         をしちゃって。そんな目つきをしていたんでは本当の
         フラメンコは勿論踊れないわよ。もっと激しい獰猛な目つきを
         してごらんなさい!あーっだめ、全然だめ!
         うーん、そうね、よし、じゃ自分が野獣になったことを想像
         してみて、美しいネコ科の動物がシマウマを殺したところを
         ね、さぁやってみるわよ!(野獣のように歩きながら、
         想像上の牙をむき出し爪をみせつけ、ギタリストを襲うふりを
         する)今の私の目つき見た、ひかりちゃん?
         獰猛だったでしょ?こんな風にやるのよ!

 ひかりはコンチータがやったように野獣のように歩きながら牙と爪を見せて、
 ギタリストに、すみませんと頭を下げながら襲いかかるふりをする。

コンチータ    (他のダンサーたちに)ちょっと見た?このお譲ちゃん! 
         ネコ科の野獣、野生のトラになれって言っているのに、これ
         じゃせいぜい恐ろしい雄牛にでもなったつもりで雌牛を
         脅かしている、角もない仔牛ってとこね。

ひかり      ニューヨークの友達のヒラリーにも、いつもそう言われた
         けど。コンチータ先生、私って従順で内気なんです。
         ニューヨークで建築の勉強をしていた頃に、ヒラリーったら
         私を仕込み直そうとして、他人に私の心の奥の感情を
         もっと見せるようにって無理強するんだもの。私にとっては、
         ほんっと拷問でした。私の彼が別の娘とディスコに
         行ったら、彼にびんたしろとか、人前でキスしろとか、もし
         先生に悪い点付けられたら、壁をたたけのカバンを
         殴れのっていうんだもの。

コンチータ    それで?だってそんな難しいことじゃないでしょ!

ひかり      無理です!彼を平手打ちしたり人前でキスしたり、できっ
         こないです!うちの親はそんな風に私を育てませんでした!

コンチータ    よし、じゃ、私があなたのお母さん代りに教えてあげる。
         フラメンコを踊ることでひかりも自分自身の怒りとか、情熱
         とか、嫉妬心とか、愛することの苦しみを表現できるのよ。
         ほら、なんてったっけ?あなたの彼氏?時々あなたが踊って
         いるところを見に来るじゃない?藤本さんだっけ?

ひかり       藤原です。

コンチータ    あぁ、そうだっけ?それじゃ、ひかりの藤森さんを
         イメージしてみて…

踊り子A      先生、藤原さんです!

コンチータ    え?あ、そう?はいはい、じゃ、イメージするのよ、
         ひかりちゃん、そのフジ…フジ… 藤原さんが、かわいい
         お嬢さんと公園を散歩しているところを。イメージできた?

ひかり      無理です!そんなことイメージできないです!
         彼を信頼しているもの。

コンチータ    あらら、ナイーブなのね、ひよこちゃん。そこでギター
         抱えてるこいつ(ギタリストを示しながら)... 昨日こいつが
         公園を女と歩いてるとこ目撃しちゃったわよ、私。
        (脅すふりをしてギタリストに近づき、殴りかかるかのように
         こぶしを握り締める。ギタリストはギターの陰に隠れる)