世界に一つだけの花を聞かされてきた平成の子供たち
日本が豊かになり高度成長期を経た大人たちが競争社会に嫌気をさし、世界に一つ
だけの花という歌が空前の大ヒットになった。我々はあるとき競争社会にさいなま
れ、学歴社会の中、偏差値を一つでも高く伸びる様、また部活動ではレギュラーと
して県大会優勝を目指して頑張ってきた。しかし結局一番大切なものはオンリーワ
ン。自分らしく輝いていれば、他の事なんかちっぽけに感じてしまう。
しかし今の若い人たちにとっての世界に一つだけの花とはどういうものなのか。も
ういい大学を卒業して大企業に勤めれば成功というわけではない。みんながこの事
実を知る時代だ。学校でもそう教えている。大企業とかでなく自分でしかできない
こと。オンリーワンとして企業に貢献する。そんなことを良しとされている。気が
付いたら就職にもオンリーワンを目指すので、ただ部活動を普通にやっているだけ
じゃ駄目だ。部活動に参加せず、民間のヒップホップダンスを習い、ダンスだけで
も、もはやありきたりだから世界レベルになりたい、高額のお金を払って有名ダン
サー講師のプライベートレッスンを習いたい。海外に行って短期留学したいそうし
なければ到底オンリーワンにはなれない。親も子供のため不況の低収入の中、子供
の成長のためなら、出費も惜しまない。身を粉にして子供のために働く。気が付い
たら子供は世界に一つだけの履歴書を作ることに家族ぐるみで四苦八苦している。
もともと私たち昭和の世代はがむしゃらに働きそんなに頑張らなくていいんだよ。
オンリーワンでいいんだよ。そのままのあなたでいいのよ。そんな優しい歌として
世界に一つだけの花を誰に言われるわけでもなくいいと共感した。あなたもいいと
思った?やっぱり?ええ?あなたも?そうやって社会現象と言えるようにヒットと
なり後世の人にも伝えようとした。しかし現状として若い平成の人たちは耐えると
いう事を知らない、踏ん張りがきかない、でもオンリーワンの大切さは分かってい
る。それも自分自身でオンリーワンという答えが出てきたのではなく、小さいころ
から世界に一つだけの花がいい歌と聞かされてきたから、これがいいことなんだ
と。
必死に上を目指してきた私たちにとってはいい歌でも、社会経験もない、部活動
で必死に頑張ったりチームの輪というものを経験で知らない人にとってはそんな響
く言葉だろうか?私たちが伝えたい事と、平成の子供たちが必要としている教育と
は必ずしも一致しないのではなかろうか?我々も30代40代になるまで今の60
代、70代、80代の人たちから教育を受けた。人と人は支え合うもの、やさしさ
の大切さ、苦労は買ってでもしろ。徳川家康は、鳴かぬなら鳴くまで待とうホトト
ギスと言った。今ではありきたりと思えるこの言葉をもう一度反芻して、自分たち
が以前育てられたという事をよく思いだし、その恵みを後世に伝えなければいけな
いのではないか。いいことだけを言うのではなく、手をかけ世話をし、疲れるのを
承知で叱ったり、愛情を注いだり、そういうことが必要ではないだろうか。教育の
ための教育は自分が育てられたことを忘れた人の発想を持った人のすることで、愛
情、友情、やさしさ、前進、そんな根本的な事の大切さが分かる事、今の子供たち
は弱い根本的なものを知らないと嘆く前に私たちが根本的な事を教えることを怠っ
ていないか。そんな事をついつい考えてしまう。
作品名:世界に一つだけの花を聞かされてきた平成の子供たち 作家名:松橋健一