Miracle Happens
急がなきゃ。きっとまた何か失敗でもしちゃったのかも。。
咲希はさっきチーフから呼び出しのメールがきたため、ランチもそこそこに大急ぎで事務所に戻っていた。もうこの会社に入って3年目なのに、未だにこうやって呼び出しをくらう。まだトラブルとは決まってないのだが、女の感とでも言うのか何となく咲希は分かっていた。
チーフもこんな部下を持つとさぞ大変だろうと、労いたくなる。
息を切らしながら事務所のドアを開けると、すぐにチーフの顔が咲希の視界に飛び込んで来た。チーフも咲希に気付いて真面目な顔で手招きする。
咲希は大きく深呼吸をすると、頭を下げてチーフの座っているデスクに向かう。
「す、すみません、遅くなって。私なにかまた、、、?」
咲希は恐る恐る問いかける。
「ん?あー、これなんだけど。発注の数が合わないんだ。もう一度確認してみてよ」
チラリと私の顔を確認するも、顔色ひとつ変えないチーフはそう言って、持っていた発注書類を差し出した。
咲希はしばらく書類に目を通すと自分の間違いに気付く。
「あっこれ。すみません!直ぐに訂正します!」
咲希は真っ赤な顔で深々と頭を下げる。
「あぁ、そうして。今日中でいいから。でも先に、この書類も20部コピーとってきて」
「あっ、はい、分かりました」
そして咲希は渡された書類の束もしっかり受け取り、印刷室へ向かった。
「ありえないんですけど」
「そうそう、あれでよく会社クビにならないよね」
「だって、社長の姪って聞いたことあるよ?じゃなきゃあんな子雇ったりしないでしょ」
事務所を出るとき、女子社員の甲高い笑い声が聞こえてきた。
「・・・姪なわけないでしょ」
うちの家系に社長なんて肩書きの人いないんだから。
咲希は心の中で反論するも、本当にこの会社は自分みたいな人材を抱えていて本当にいいのだろうかと心配してしまう。
チーフもあんまり怒ったことないけど、私のことどう思ってるんだろう。
きっとアホなやつとか思ってるんだろうな。こんなミスするし、怒りも通り越して呆れてるんだろうな。
咲希は少し投げやりな気持ちでコピーをセットする。
「アホなやつだな」
「きゃあ!?、、チーフ!?いつからいたんですか!?驚かさないでくださいよ」
いつの間にか後ろに立っていたチーフに驚きを隠せない。しかも本当に自分の事をアホと呼ぶとは。わかってはいたのにやっぱりショックだ。
「さっきからずっと。午後のミーティングでその資料使うから、待ってるの」
チーフは入り口の壁にもたれかかり悪戯っぽく笑っていた。
チーフ笑ってる。私がこんなミスばかりしなきゃいつもこうやって笑ってくれるはずなのに、、困らせてばかりで本当に申し訳内気持ちになる。
「直ぐ出来ますから」
「うん、待ってるよ」
印刷室にコピー機の音だけが響く。
なんかチーフがそこに立っていらっしゃると緊張するんですけど。咲希は緊張して振り向けない。このドキドキもコピー機の音で気付かれないから良かった。
するとチーフが思い出したように口を開いた。
「君は、料理も出来ないんだろうな」
「え?いきなりなんて失礼な質問なんですかっ」
あまりの唐突な質問に動揺を隠せない。しかも恥ずかしくてチーフの顔も見れないし。
「ん?なんか救ってやりたいから。で、料理くらいできるの?」
救ってやりたいって、、、
「全然意味わからないんですけど。でも料理は得意です。昔から母が仕事で家にいませんでしたから。今でもずっと・・・」
そう言って咲希は口を手で押さえる。私ってば余計なことペラペラと、、
咲希はチラッとチーフの顔を覗う。チーフは腕を組んで俯きながら考えている様子だった。
その頃、ちょうどコピーも終わり、咲希は原本と合わせてひとまとめにする。
「チーフ出来ました。ミーティングルームに置いてきましょうか?」
チーフは黙ったまま、腕を組んで俯いているままだった。
「・・・チーフ?」
咲希はチーフの顔を少し覗いてみた。すると急にチーフが顔を上げて言った。
「君は、、」
「はい?」
「この仕事には向いてないのかも」
今なんて、、?咲希はチーフの言葉に自分の耳を疑った。
「、、、どういうことでしょうか?」
「この会社辞めて専業主婦にでもなったら?」
一瞬頭の中が真っ白になり言葉が出てこない。手の力が抜けてコピーした資料が床に散乱する。・・・ひどい。ひどいよ、チーフ。本当の事かもしれないけど、今この場所でチーフにだけは言われたくなかった。
チーフが自分を必要としてないという現実が咲希には受け入れられるはずもない。
咲希は涙ぐみながら黙ってチーフを見つめる。
「なんて顔してんの。まだ話の続きがあるのに」
チーフは笑った。
「え、、、?」
「仕事辞めて僕と結婚して欲しい。君はその方がきっと向いてるから」
私の耳がおかしく無ければ、今チーフは私と結婚して欲しいと言った。
結婚っていったら、一緒に暮らして一緒にご飯食べて、一緒に寝て、あんな事やこんな事もしちゃったりして、、、
「きゃーーー!?むむむ無理ですっ!!!ってあの、チーフに問題があるわけじゃなくて、その、私では務まりません!!」
咲希は一瞬間が空いた後、絶叫してしまった。だって、だって。
好きとか嫌いとか関係もなく、いきなり結婚って。
「ぶはははは。思いっきり振られてるんだけど、、俺」
「あの、だからチーフが悪いんじゃないんです。」
もう、完璧やられっぱなしだ。
「俺、そんな思いつきで言ったんじゃないよ?ずっと君を見てきたから、君が欲しいって思っていたから。ただ、いきなり結婚とは驚かせたよね、ごめん」
チーフは頭を掻きながら苦笑いしている。
そんな顔を見て咲希は内心嬉しかった。
「そ、そんな私は嬉しいです」
だって、チーフは私を含めて女子社員の憧れだし、もうとっくに誰かの彼氏かと思ってたから、こんな事って・・・ミラクルでも起きなきゃあり得ないんだけど。
「ただ、僕はそんなサラリーももらってる訳じゃないから、良い暮らしは望めないと思う。だから君がいいと言ってくれればの話なんだけど、、?」
チーフが俯いた咲希の顔をのぞき込んできた。
「どうかな?」
「・・・・・」
返事が出来ない。だって、、、ハッキリとしたチーフの気持ちがまだ聞けてないから。
あー、、って言ってる自分ってすごく面倒くさい女かも。この順序の場合は好きとか嫌いとかどうでもいいのかな。
「私の気持ちは聞かないんですか?」
「え?」
いきなりの咲希の質問に目を丸くしてチーフが固まっていた。逆に上手に出られると弱いようだ。
咲希は顔を上げて、顔スレスレまでずんずんとチーフに近づいた。
「私の方がずーっとずっとチーフの事見てきました。私に気付かないところでも何度かフォローしてくれたり。チーフがとてもいい人だって知っています。そんなチーフを尊敬もしてます。だから、チーフが私を欲しいと聞いて、本当に飛び上がりそうなくらい嬉しいです。でも、チーフがほしがってるからってあげるっていうのは嫌ですっ」
早口で言う咲希について行けてないチーフの表情。咲希も自分がこんなにもおしゃべりとは正直驚いている。
「ちょっ、意味がよく分からないんだ」
咲希はさっきチーフから呼び出しのメールがきたため、ランチもそこそこに大急ぎで事務所に戻っていた。もうこの会社に入って3年目なのに、未だにこうやって呼び出しをくらう。まだトラブルとは決まってないのだが、女の感とでも言うのか何となく咲希は分かっていた。
チーフもこんな部下を持つとさぞ大変だろうと、労いたくなる。
息を切らしながら事務所のドアを開けると、すぐにチーフの顔が咲希の視界に飛び込んで来た。チーフも咲希に気付いて真面目な顔で手招きする。
咲希は大きく深呼吸をすると、頭を下げてチーフの座っているデスクに向かう。
「す、すみません、遅くなって。私なにかまた、、、?」
咲希は恐る恐る問いかける。
「ん?あー、これなんだけど。発注の数が合わないんだ。もう一度確認してみてよ」
チラリと私の顔を確認するも、顔色ひとつ変えないチーフはそう言って、持っていた発注書類を差し出した。
咲希はしばらく書類に目を通すと自分の間違いに気付く。
「あっこれ。すみません!直ぐに訂正します!」
咲希は真っ赤な顔で深々と頭を下げる。
「あぁ、そうして。今日中でいいから。でも先に、この書類も20部コピーとってきて」
「あっ、はい、分かりました」
そして咲希は渡された書類の束もしっかり受け取り、印刷室へ向かった。
「ありえないんですけど」
「そうそう、あれでよく会社クビにならないよね」
「だって、社長の姪って聞いたことあるよ?じゃなきゃあんな子雇ったりしないでしょ」
事務所を出るとき、女子社員の甲高い笑い声が聞こえてきた。
「・・・姪なわけないでしょ」
うちの家系に社長なんて肩書きの人いないんだから。
咲希は心の中で反論するも、本当にこの会社は自分みたいな人材を抱えていて本当にいいのだろうかと心配してしまう。
チーフもあんまり怒ったことないけど、私のことどう思ってるんだろう。
きっとアホなやつとか思ってるんだろうな。こんなミスするし、怒りも通り越して呆れてるんだろうな。
咲希は少し投げやりな気持ちでコピーをセットする。
「アホなやつだな」
「きゃあ!?、、チーフ!?いつからいたんですか!?驚かさないでくださいよ」
いつの間にか後ろに立っていたチーフに驚きを隠せない。しかも本当に自分の事をアホと呼ぶとは。わかってはいたのにやっぱりショックだ。
「さっきからずっと。午後のミーティングでその資料使うから、待ってるの」
チーフは入り口の壁にもたれかかり悪戯っぽく笑っていた。
チーフ笑ってる。私がこんなミスばかりしなきゃいつもこうやって笑ってくれるはずなのに、、困らせてばかりで本当に申し訳内気持ちになる。
「直ぐ出来ますから」
「うん、待ってるよ」
印刷室にコピー機の音だけが響く。
なんかチーフがそこに立っていらっしゃると緊張するんですけど。咲希は緊張して振り向けない。このドキドキもコピー機の音で気付かれないから良かった。
するとチーフが思い出したように口を開いた。
「君は、料理も出来ないんだろうな」
「え?いきなりなんて失礼な質問なんですかっ」
あまりの唐突な質問に動揺を隠せない。しかも恥ずかしくてチーフの顔も見れないし。
「ん?なんか救ってやりたいから。で、料理くらいできるの?」
救ってやりたいって、、、
「全然意味わからないんですけど。でも料理は得意です。昔から母が仕事で家にいませんでしたから。今でもずっと・・・」
そう言って咲希は口を手で押さえる。私ってば余計なことペラペラと、、
咲希はチラッとチーフの顔を覗う。チーフは腕を組んで俯きながら考えている様子だった。
その頃、ちょうどコピーも終わり、咲希は原本と合わせてひとまとめにする。
「チーフ出来ました。ミーティングルームに置いてきましょうか?」
チーフは黙ったまま、腕を組んで俯いているままだった。
「・・・チーフ?」
咲希はチーフの顔を少し覗いてみた。すると急にチーフが顔を上げて言った。
「君は、、」
「はい?」
「この仕事には向いてないのかも」
今なんて、、?咲希はチーフの言葉に自分の耳を疑った。
「、、、どういうことでしょうか?」
「この会社辞めて専業主婦にでもなったら?」
一瞬頭の中が真っ白になり言葉が出てこない。手の力が抜けてコピーした資料が床に散乱する。・・・ひどい。ひどいよ、チーフ。本当の事かもしれないけど、今この場所でチーフにだけは言われたくなかった。
チーフが自分を必要としてないという現実が咲希には受け入れられるはずもない。
咲希は涙ぐみながら黙ってチーフを見つめる。
「なんて顔してんの。まだ話の続きがあるのに」
チーフは笑った。
「え、、、?」
「仕事辞めて僕と結婚して欲しい。君はその方がきっと向いてるから」
私の耳がおかしく無ければ、今チーフは私と結婚して欲しいと言った。
結婚っていったら、一緒に暮らして一緒にご飯食べて、一緒に寝て、あんな事やこんな事もしちゃったりして、、、
「きゃーーー!?むむむ無理ですっ!!!ってあの、チーフに問題があるわけじゃなくて、その、私では務まりません!!」
咲希は一瞬間が空いた後、絶叫してしまった。だって、だって。
好きとか嫌いとか関係もなく、いきなり結婚って。
「ぶはははは。思いっきり振られてるんだけど、、俺」
「あの、だからチーフが悪いんじゃないんです。」
もう、完璧やられっぱなしだ。
「俺、そんな思いつきで言ったんじゃないよ?ずっと君を見てきたから、君が欲しいって思っていたから。ただ、いきなり結婚とは驚かせたよね、ごめん」
チーフは頭を掻きながら苦笑いしている。
そんな顔を見て咲希は内心嬉しかった。
「そ、そんな私は嬉しいです」
だって、チーフは私を含めて女子社員の憧れだし、もうとっくに誰かの彼氏かと思ってたから、こんな事って・・・ミラクルでも起きなきゃあり得ないんだけど。
「ただ、僕はそんなサラリーももらってる訳じゃないから、良い暮らしは望めないと思う。だから君がいいと言ってくれればの話なんだけど、、?」
チーフが俯いた咲希の顔をのぞき込んできた。
「どうかな?」
「・・・・・」
返事が出来ない。だって、、、ハッキリとしたチーフの気持ちがまだ聞けてないから。
あー、、って言ってる自分ってすごく面倒くさい女かも。この順序の場合は好きとか嫌いとかどうでもいいのかな。
「私の気持ちは聞かないんですか?」
「え?」
いきなりの咲希の質問に目を丸くしてチーフが固まっていた。逆に上手に出られると弱いようだ。
咲希は顔を上げて、顔スレスレまでずんずんとチーフに近づいた。
「私の方がずーっとずっとチーフの事見てきました。私に気付かないところでも何度かフォローしてくれたり。チーフがとてもいい人だって知っています。そんなチーフを尊敬もしてます。だから、チーフが私を欲しいと聞いて、本当に飛び上がりそうなくらい嬉しいです。でも、チーフがほしがってるからってあげるっていうのは嫌ですっ」
早口で言う咲希について行けてないチーフの表情。咲希も自分がこんなにもおしゃべりとは正直驚いている。
「ちょっ、意味がよく分からないんだ」
作品名:Miracle Happens 作家名:ケム