雪だるまの奇跡
誰がこんな雪だるまを作ったのだろう……。不思議に思ったが何か運命のようなものを感じた。
さっき、一度ポケットにしまった紙とペンを再び取り出す。文字を書こうと思うが、手がかじかんでなかなかまともに書けない。震えるような字で”凛が助かりますように”と書いて雪だるまの頭に押し込む。その後地面にある雪を拾って筒状の部分に詰めて空洞を完全にふさいだ。
しばらくその場に佇んで、雪だるまに向かって両手を合わせ祈る。そして病院に戻った。
朝になった。扉の開く音。医者が集中治療室からでてきた。
「娘さんは、凛ちゃんは大丈夫です。奇跡的に命を取り留めました。よかったですね! お父さん! お母さん!」
二人の顔には喜びの笑顔と同時に涙が零れ落ちていた。よかった……。よかった……。
「雪だるまの願い事、叶ったみたいだ」
「えっ?何?雪だるまの願い事って?」
ぼそっと言った僕の一言に妻が反応した。
「いや、なんでもないよ」
一週間後、春らしい陽気となりあの時に積もった雪はすっかり解けてなくなっていた。
凛のいる病院へと向かう途中、何気なく公園を見ると真ん中のあたり、雪だるまが座っていた場所に小さな紙切れが落ちていた。
願いをかなえてくれた感謝の気持ちでその紙切れを拾い、広げてみる。
そこには――、自分が書いた文字の他にもう一行、願い事が書かれていた。
“良太君の願いが叶いますように”
これは……。
二十七年前、けいこちゃんとした”一緒に願い事を入れよう”という約束は時を超えて果たされたのだった。