ゲイカクテル 第6章 ~ DANCE AWAY ~
その日の晩、アレックスとビリーは濃紫のドレスと黒のタキシードを着ていた。一か月前にロゴス主催のダンスパーティーの招待状が来ていて、それが今晩だからだ。呼び鈴の音がしてビリーが出るとエリクだった。二人を迎えに来たのだ。三人は階下に下りて、停めてある車に乗った。エリクは車をUターンさせると南下した。そしてフォレスト通りの一本南のヒルズ通りを西に入り、しばらくすると会場の高級ダンスホール、ワン・リパブリック・ホールに着いた。エリクは二人を降ろすと駐車場に車を停めた。そしてお開きになるまでエリクは車の中で待つのだ。
アレックスとビリーはホールの入り口の左右に立つ用心棒を無視して中に入った。受付に行くと、招待客は二階のオープン・ラウンジを無料で使え、ドリンクも無料という説明を受けた。次にクロークで二人はコートを預けてホールに向かった。バンドやオーケストラの生演奏だった。二人は三曲ほど踊って二階のオープン・ラウンジに行くと、グラント将軍夫妻を見つけた。アレックスとビリーは二人に挨拶をし、相席をした。すぐに給仕がやって来て飲み物の注文を聞いた。アレックスはジャック・ダニエルのダブルを、ビリーはジンジャーエールを頼んだ。するとロゴスが招待客の挨拶回りをしているのが見えた。しばらく見ていると注文した飲み物が運ばれてきたので、グラント将軍夫妻と乾杯をした。
「お久し振りです、将軍、キャサリン夫人」
「アレックス、元気にしとったか。クロス以来だが」
「はい、この通り元気です。ビリーも元気です。将軍もキャサリン夫人もお変わりなさそうで」
「私もキャサリンもこの通り元気だよ」
「私は相変わらずお花に凝ってるわ」
「私もです、キャサリン夫人。お花っていいですよね」
「ビリーもお花好きだものね」
他愛もない会話をしながら四人は飲んだ。そこにロゴスが挨拶にやって来た。
「グラント将軍、キャサリン夫人。よくお越し下さいました」
「キャサリンはダンスが好きなんだよ」
「そうですか。アレックスとビリーも来てくれてありがとう」
四人は口を揃えて「いいえ」と言った。
「ところでアレックス。ゲイカクテルはどうなっているんだ」
「ルートなんだが、オーランド郡で共和国から密輸して、帝都ノイキルヒとホランド郡に流れてきているらしい」
「誰が動いているんだ」
「トーマスとリチャードの件に関してはロンが、ゲイカクテルについては麻薬課の、えぇと、誰だっけ、ビリー」
「シャズ・ゴードンです、親分」
「そう。彼女が担当している」
「まぁ、そこそこやる刑事だな」
「そうなのか。ヤクを取り扱うのは初めてだから、麻薬課のコトは分からない」
「じゃあ、ノイキルヒとオーランド郡との合同捜査だな。取引はいつなんだ」
「三日後だ」
「おいおい、大丈夫かよ」
「ロンは大丈夫だと言っている」
そう言うとアレックスはジャック・ダニエルを一気に吞み干し、給仕におかわりを頼んだ。しばらくして酒が運ばれてきた。
「情報局でもゲイカクテルは問題になっているのだよ、アレックス」
「そうなんですか」
「警察がヘマをしたら出動しようと思っている」
「そういう話が出ているのですね」
「まぁな」
「じゃあ、他の招待客にも挨拶があるので、これで失礼します。ごゆっくり」
ロゴスはお辞儀をして去り、別の招待客に挨拶をしに行った。アレックスとビリーはグラント将軍夫妻に「ではまた」と言ってホールに戻り、三曲踊ると帰るコトにした。クロークでコートを受け取り、エリクの車に駆けつけた。エリクは二人を家まで送り届けた。
作品名:ゲイカクテル 第6章 ~ DANCE AWAY ~ 作家名:飛鳥川 葵