恋の結末
そうは言ったもののこの重苦しい雰囲気をどうするべきか。
「遊園地は楽しかったか?」
って何言ってんだ僕。楽しかった訳ないじゃないか。
「たくは楽しくなかったんか?」
「え、あっいや、楽しかったぞ」
「そうか。それは良かった」
普段の会話。
しかし、わずかな時間とはいえ一緒に過ごした僕なら分かる。いや、普通に考えれば分かるだろう。
僕は安芸があのとき目を瞑った理由をよく考えるべきだったのだ。怖かったのだろう。
「安芸」
「なんや、たく……んぎゅ」
僕は安芸をぎゅっと引き寄せた。
「たく……」
引き寄せた肩が小刻みに揺れているのを感じる。
「大丈夫、僕が守ってやる」
安芸もよく分からないが女の子なんだと思い知らされた。
日曜日の朝。それは平日と比べて幸せ度三割り増しだと思う。だが、天は僕にそんな幸せを与えてくれようとはしない。気が付くと過ぎてしまっている。
今日もそうだった。あまりの外の騒がしさに起きたときにはもう既に太陽は昇りきっていた。
重たい頭をむりやり働かせてリビングに降りると、相変わらずの定位置に安芸が寝っ転がっている。
「おはよー」
背もたれのせいで安芸の顔までは見えないが、足を振って鼻歌を歌っているところを見るに機嫌はいいらしい。
おはようとだけ答えて、何か食べる物はないかと冷蔵庫を開いた。
なぜか冷蔵庫の中身がかなり減っている。それも普段使わないようなものーータバスコが空っぽになって転がっている。
葵がこんな事をするはずがない。となると、犯人は一人しかいない。
「おーい、なんだか冷蔵庫の中身が減ってる気がするぞー」
びくっと安芸の体が震えた。と、同時にさっきまで流れていた鼻歌が止まる。
「……な、なんでやろうなー」
ぜったいに嘘だ。嘘付くのへたくそだな。
ちょっとばかり可愛い面が見られた訳だが、いったいこいつは何にこんな物を使ったのだろうか。
辺りをぐるりと見渡してみるとテーブルの上に皿が乗っている。葵が洗い忘れたのだろうか。いや、そんなことはないはずだ。皿の上に紙が乗っかっているところを見るにどうやら皿の中には何かが入っているらしい。
「こほっ……こほっ……」
あまりにもわざとらしくて笑ってしまいそうな咳払い。
なるほど。これを見て欲しくてそわそわしていたのか。
仕方ない。辛そうな料理が出来ていそうだが、食って欲しいオーラを出してこっちを見ている安芸には叶わない。
「これ、作ったのか?」
「う……うん」
紙をどけて出てきた物は毒々しいほどに鮮やかな紫色の団子だった。
ごめん。これは人間の食べるものじゃないよ。
「じー」
安芸が見てる。
「これは……なんだ?」
「お菓子」
思い切って口に含んでみた。
この世のものとは思えない味。
「……おいしいよ」
「おいしいかそれはよかった」
実際にこの黒い物体がおいしいかと言われたら困ってしまうがこう言っておくべきだろう。
安芸はよかったよかったと言ってソファをごろごろと転がっている。
む、そんなに転がるとただでさえぶかぶかな胸元から中身が……
「ちょっ、見んといてや」
「見てない見てない」
なんだかこう言うところだけ妙に聡い奴だ。
「ああそうだ明日、終業式なんだ」
「そうか……夏休みの間に決着を……付けてしまおか」
一気に安芸に返事に元気がなくなった気がする。
「ああそうだな」
「……」
なぜ安芸は黙って何かを考えていた。