恋の結末
「……疲れたわ」
近くにある椅子に一緒に座る。
ペタリと体にくっつく柔らかい感覚がどこか極楽のような地獄のような……。
ソフトクリームでも買ってやるか。
「ちょっと待っといてくれ」
そう言って僕は近くのソフトクリーム屋に行こうとして、
「きゃぁああああーー」
僕たちは顔を見合わせた。
何かが起こったようだった。
「場所は……?」
「メリーゴーランドの近くから聞こえた」
僕は安芸の手を握り、駈け出した。
「行くぞっ!」
「……うん」
僕たちはアトラクションの間を通り抜けてメリーゴーランドの前に来た。
――うっ。
なんとそこでは優男風の男が刃物を振り回していた。
小さな子供たちがまだ一杯周りにいる。
「危ないっ……!」
つい僕は叫び声を上げてしまった。
その瞬間、男はこっちを振り返るとニヤリと笑いこっちに向かってきた。
「安芸っ……!」
僕は安芸の前に出ようとするが間に合わない。
男は安芸の腕を掴むと強引に引き寄せ、首にナイフを突きつけた。
くそっ……!
藪を突いて蛇を出してしまった……。
ぼやいた所でこうなってしまうと手出し出来ない。
「動くなよ!」と、男は刃物を振り回す。
「動いたらこいつがどうなるか分かってるだろうな!」
「……」
肝心の安芸はおびえた様子で動けないでいる。
「そこまでだ、君。早く人質を解放しなさい」
ようやく到着した警備員が男に呼びかける。
「動くなっ!」と、男は刃物を警備員の方に向ける。
「は、早く車を用意しろ!」
安芸が人質に取られている以上、どうすることも出来ない。
大人しくするしか無いのか……?
いや、だめだ。安芸は僕が助ける。助けに行ってやるっ。
安芸に目配せすると僕はダッシュした。
警備員の制止の声が聞こえる。
男がこっちを向く。
くそっ。間に合わない!
諦めかけたその時。
安芸が目を瞑り、男の足を思いっ切り踏んづけた。
「うっ……」
「……」
安芸を押さえていたてが離れる。
そのチャンスを逃さず安芸は男から離れた。
「こ、こいつめっ!」
男はナイフを安芸に向ける。
僕はその隙を付いて回転をかけつつ男のうでをつかむ。
「何っ!」
「おりゃぁああああああああっ……!!」
僕は体を沈め、男を宙に浮かす。
次の瞬間、僕は男を地面に思い切り叩きつけた。
「ふう……」
男は地面に伸びて、ナイフも手から離れて地面を転がっていた。
「ありがとうな……」
そう言って安芸は僕の胸に頭を載せてきた。
なんて言えばいいんだ?
無事で良かった。助かって良かった。色んな返事が思い浮かんだがどれも白々しい様に感じた。
結局、僕は事情聴取をしたいと言う警官について行くのをいいことに返事を先延ばしにしてしまった。