恋の結末
放課後は、あちらこちらから運動部の歓声や掛け声が聞こえてくる。
しかし、僕はクラブに所属していない。
「よし、図書館に行くか」
この学校には結構立派な図書館が設置されている。
それに今日は図書館に行くって決めてたしね。
「あ、たっくん! 今日は何しに来たの?」
ああ……。
やっぱり葵は可愛いなあ。
朝のふらふらさを疑ってしまう程に落ち着いた足取りでこちらに向かってくる。
「新しい本が入ってないかなって思ってさ」
「わぁ、たっくんありがとう」
「それじゃあ、こっちに来てね」
そう言って葵は図書館のカウンターをポンポンと叩いた。
「葵は図書委員だったのか?」
「うん、そうだよ」葵はうれしそうに言う。
「それに、本を読むの大好きだから」
確かに、常に何かの本を持ち歩いていたな。
チラッと見た本のタイトルは十年以上前の宇宙の旅だった。
「それでたっくんは新しい本が入ってるかが知りたいんだよね」
葵はしばらくパソコンと格闘していたが、暫くすると一枚の紙を印刷して僕の方に渡してきた。
「新しい本はこんな感じかな」
ありがとうと葵に声を掛けて僕は図書館の本棚の間を歩くことにした。
あれ? ライトノベルがないぞ……。
それどころか堅い本で一杯だった。
しばらく探した僕は隅の方に追いやられていた軽小説コーナーを発見した。
厳しい人が図書委員になったんだろうな。
本の公開や購入、その他の図書館運営は図書委員が一手に握っている。
そうであるがゆえに委員会内の風潮次第ではこうなる。
僕は数冊の本を手に取ると椅子に座って読み始めた。
「ふむ」
僕は本を一旦閉じて表紙を見る。
本の内容は愛らしいデフォルメされたキャラがドタバタするだけの物だ。
もちろん僕はブンガクも大好きだし、よく読む。
だが、時にこのような本が面白いのもまた事実だ。
ふと、誰かが後ろから僕に近づいてきた。
「たっくん、何読んでいるの?」
振り返ると、手に一世紀の孤独という本を持った葵が立っていた。
「ああ……、これのことか?」
そう言って僕は葵の方に表紙を向けた。
「むむ……」
?
どしたことか葵は表紙を見ると黙りこんでしまった。目は僕が選りすぐってきた数冊の本の上に注がれている。
「たっくんはこのなかでどの本が好きなの?」
机の上に積まれているのは、黒と赤、戦争と文明、ホームズ二世のロシア旅行記、中二病でも腰が痛い。
ふむ、どれが好きか……。
「これかな」そう言って僕は黒と赤を手に取った。
「主人公が最後、断頭台に消えるあたりがさ」
「えっ、断頭台に消えちゃうの?」
「消える」
「ポンッて?」
「いや、そっちじゃなくて普通に処刑されるから」
「そっちかー。じゃ、私まだ仕事が残ってるからまたね」
それだけ言うと去っていった。
去り際に、
「たっくんが読んでいるなら私も読んでみようかな」
と聞こえた。