恋の結末
一時間もの長きに渡って生活指導室に監禁された僕はほうほうの体で家にたどり着いた。
「ただいまー」
と、ドアを開けると蒸し暑い空気がこもってい……なかった。さーっと足元から冷気が体を包み込んでくる。
「んん? おかえりー、たく」
遠くリビングの方から声が聞こえてきた。
……ん? 意外と淡泊な反応だな。もっとこう、おっかえりーって言って飛び込んでくれてもいいのに。
リビングの扉が少し開いている。
「ドアが開いているぞ。ってなんだこの寒さは、風邪引くぞ」
そう言って壁に掛かっているリモコンを取ってクーラーを止めた。
「えー、せっかく冷たい空気が出てきてたのに止めてまうん」
のそのそと安芸がソファから顔を上げた。その手にはアイスの木の棒が一本。
「それは僕のアイスだろ」
「細かいことは気にせんとき。授業料や授業料。彼女、大きな問題を抱えとったやろ」
「ああそうだった」
「見えたぞ! エンディングが!」
「はっ?」
「いや、言ってみたかっただけや。で、どんな内容やった?」
「……というわけで、とりあえずそのうち一緒に天体観測をするっていうことで約束してきた」
「あほやなー。そういうのは日付までしっかり約束してこなあかんがな」
安芸はそう言うとぱたんと再びソファに倒れ込んだ。
その勢いでぶかぶかのシャツが一瞬大きくはためいた。
見える!? 本当は見えていないが、つい凝視してしまう。
「見たいんかいな」
ジト目でこっちをみる安芸。
「えっ?」
「ばーか、見せたるわけないやろ」
はは、ですよねー。
「んで、次はどうするつもりなんや?」
「まだ決めてないっ」
「はあ、本当に一線を越えたいっていう気あんのかいな。いっそのこと月が綺麗ですねって言ったらどうや」
「ごめん、まだ私はあなたと死ねないって言われたらどうするんだっ」
「そんなことやろうと思ったわ。で、何かないんか?」
「んー、そう言えば葵を放課後見たことが無いなあ」
「はあ? そんなもん部活に入っていたら部活に行ってるんちゃうん」
「天文部は天文台で活動しているはずなんだが、活動停止処分を受けて活動していないらしい。でもまだ葵が家に来ていない。つまり……」
「つまり?」
「……分からん」
「部活やないなら委員会の仕事とかじゃないんか」
んー、そんな事言われてもなあ。
と、チャイムの音が鳴った。
「たく、チャイム鳴ってるで!」
普段は喜び勇んでドアに駆け寄っていくのに気分屋な奴だ。
しぶしぶ腰を上げて玄関に行く。
しかし、僕が鍵を開けることなくドアは開いた。
開いたドアから葵の顔が飛び出す。
「もう。こんなにクーラーをガンガンにつけて。風邪引いちゃうよ」
早速お叱りを受けた。
「すぐにご飯作るから。安芸さんもちょっとだけ待っててね」
葵は台所に向かって調理している。
「なあ葵、今日はなんで遅かったんだ?」
「突然どうしたの?」
「ああいや、何もなかったならそれでいいんだ」
「変なの。んーっと部活動が出来ないって話はしたでしょ。そうだから、最近は委員会のお仕事を手伝っているんだよ」
「委員会……?」
「うん。私、図書委員なの」
安芸がこっそりと葵に見えないようにピースをこっちに向けてきた。