恋の結末
「ふむ、お前もとうとう葵さんにアタックする気になったか」
「おい、今の話を聞いてどう取ったらそうなるんだ」
「隠さないでもいいさ。お前さんが葵さんを狙ってることぐらいみーんな知ってるぜ」
由良はそう言って、親子丼を頬張った。僕もそれを見てカレーを口に運ぶ。
「お隣失礼しますね」
「おう、そんな事言わなくたっていつでも横に座っていいんだぜ」
しかし、鈴谷さんは由良の横を通り過ぎて僕の席の横にお盆を置き、腰掛けた。お盆にはセルフサービスのお茶が一つ乗っているだけだ。
「鈴谷さんは食べないんですか?」
「ええ、今日はお腹が空いていないですから」
「そう言えば食ったり飲んだりしてるとこ見た事ねえな。ってそうじゃなくてなんで横に座ってくれないんすか」
「今日、食堂に行くってどうして教えてくれなかったんですか? 私、探したんですよ。嘘をつく人は嫌いです」
「ごめんっ。悪気は無かったんだ」
由良が哀願するように鈴谷さんの方を向く。
「いいです。次から気をつけて下さい」
「ははっ、よかったぜ。で、お前さんは何の話をしていたんだったけかな?」
「何にも話してないよ」
「いや、そんなはずはねえ。そうだった今度のお泊まりの時にいかにして自然に葵さんを押し倒すかって話だったなあ」
「押し倒すんですかっ」
「違うからね。適当なこと言わないでよ」
鈴谷さんの目が心なしか輝いている。
「はあ、もういいよ。自分でなんとかするよ」
「俺は色恋事には疎いからな。まあ、皆はお前と葵さんは付き合っていると思ってるから時間はまだあるさ」
励ましてるのかどうなのかよく分からない言葉に押されて、僕は空っぽのお皿の乗ったお盆を持って立ち上がった。
「じゃあ僕はもう教室に戻るから、後は二人でごゆっくりどうぞ」
「おうとも。あきらめる時は俺に言えよ。葵さんも俺が落としてやるからな。……ところでなんだって横に座ってくれないんだ?」
「他の女の子にも手を出すなんて、由良さんなんか嫌いです」
「ち、違う。そういう意味じゃなくってぇっ」
まあ、こんな感じで。
初めての三人での食事は幕を閉じた。
教室に戻っているあいだ、僕の頭の中ではジェロームの文字が浮かんでいたが、それはまた別の話。