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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
novelistID. 31338
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ゲイカクテル 第4章 ~ SUDDENLY I SEE~

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その頃、ビリーは夕飯の買い物を終え、中央広場でマラキーに靴を磨いてもらっていた。他愛もない世間話をしながら。そして代金を支払って帰路に就こうとした時、突然後ろから声を掛けられた。
「おい、そこのタイプX-Ⅲ」
 ビリーは不審に思い、透視モードで相手をスキャンした。驚いたコトに、相手もタイプX-Ⅲだった。
「あなたもタイプX-Ⅲなんですか」
「あぁ。オレさ、ここ来て二か月なんだけど、地理に疎くてさぁ。どっか遊べる所ねぇかなぁ」
「どんな人がタイプなんですか」
「オレ、タチなんだわ。で、どS。従順で、アフターでセックスできる所知んねぇかな」
「顔はどうなんですか」
「優しい感じかなぁ。ある? そんな所」
「ありますよ。案内しましょうか」
「おう、頼むわ。オレ、マックス・フォン・ユンカー。あんたは?」
「ビリー・トマス・シュナイダーです」
「ビリーか。ふ~ん」
 ビリーはマックスを連れてゲイストリートに入った。
「ここがヴェロニカ通り。通称ゲイストリート」
「ふ~ん。知んなかった。いろんな店があんだ」
「はい」
 ゲイストリートを入って、すぐ右側にリーゼという店があった。
「ここです。私、顔が利きますから、入りますか」
「あぁ。いいな」
 ビリーはオープン前のリーゼのドアをノックした。すると一人のホストが出てきた。ビリーも知っている顔だ。
「ビリー、どしたの? 遊びはやめたんじゃないの?」
「こちら、マックスさん。タイプの人がいる店を探しているそうです」
「そうなの。入る?」
「いいですか。じゃあ、お言葉に甘えて。入りましょうか、マックスさん」
「さんってのはやめてくれ。くすぐったくてたまんねぇ。マックスでいいよ」
「分かりました」
 二人は促されて中に入った。ホストが全員揃っていて、マックスは見て回った。
「この三人なんかいいな。好みだ」
「えぇと、右からハリス、ジェームス、グレンです」
「ふ~ん。本当にアフターでセックスもいいの?」
「いいですよ。ねぇ、ハリス」
「はい。ウチの店は全然そんなコト平気ですよ。とことん付き合うのがモットーですから。但しコンドームは着けて下さいね」
「オレ、アンドロイドだからナマでも大丈夫」
「あぁ、それならいいですよ。是非指名して下さい」
「お金はどれくらいかかんの?」
「お酒の量にもよりますけど、大体平均五万ですね。アフターでセックス付きだと八万になりますけど」
「安い方なの? オレ、全然そういうコト分かんねぇから」
「安いですよ、ウチは。他だと、おしゃべりとお酒だけで十万軽く超えちゃう所ありますから」
「そうか。じゃあ、近いうちに寄るわ」
「ありがとうございます」
 ビリーとマックスはリーゼを出た。しばらく無言で歩いていたが、心配になったビリーがマックスを見ると思案顔をしていた。声を掛けるべきかどうか迷ったが、声を掛けてみるコトにした。
「どうしたんですか」
「もう一つ頼みたいんだけどさぁ。人物照会所ってねぇかな」
「近くにありますよ」
 そう言うとビリーは広場から東に向かった。角に銀行があるジャクソン通りを北に入り、最初の角を東に入るとデリラ通りに出る。通称警察通りだ。まずホランド郡警察署があり、次に警察病院、そして弁護士協会ビルがある。二階に悩み相談室が幾つかあり、三階から上は弁護士事務所がたくさん入っている。ガイが七階の七〇三号室に事務所を構えている。その協会ビルの隣が人物照会所だ。二人で中に入ると受付カードを取り、順番を待つ。十五分ほどして番号が呼ばれたのでカウンターに行く。
「身分証明書をご提示下さい」
「会社のでいい?」
「どうぞ」
「じゃあ、はい」
 しばらく待つ。パソコンをカタカタ言わせている。
「本人確認ができました。ありがとうございました。お返しします」
 マックスは身分証を財布にしまった。
「どちらの照会を致しましょうか」
「デビット・フォーサイス」
「かしこまりました」
 またしばらく待つ。すると係が困り顔になり、パソコンの画面を見せながら謝った。
「残念ながら秘匿扱いになっております。申し訳ございません」
「どういうコト?」
「つまり住所や電話番号を知られたくない人だというコトです」
「分かりました。ありがとうございました」
 マックスはしょんぼりしながら照会所を出た。来た道を戻る。ビリーは可哀想に思えてきて、お節介をやいた。アレックスに知られたら絶対怒るだろう。
「ウチで調べましょうか。お金は五千バックスかかりますけど」
「それくらいならあるよ。調べられんの?」
「ハッキングすれば、恐らく」
「じゃあ、お願い」
 ビリーはマックスを連れて家に帰った。買い物をしまい、マックスにリビングで待つように言い、自室のパソコンを立ち上げた。パスワードを打ち込み、作業を開始する。ダミーを使い、各サーバーにアクセスする。その内にヒットが来た。デビット・フォーサイス、五十六歳、住所はホランド郡フォレスト通り三十二番地、職業は作家とある。顔写真もある。ビリーはマックスを呼んだ。顔写真を見せると、しきりに頷いた。
「そう、彼。作家の夢叶ったんだ。すげぇ」
「どういうお知り合いですか」
「ホムンクルス時代の恋人。戦争中に行方不明になっちまったんだけど、最近ホランド郡にいるっていう噂を聞いてさ。んで来たんだよ、こっちにさ」
「そうなんですか。じゃあ、五千バックスになります」
 マックスは財布から五千バックス紙幣を抜き出した。ビリーは受け取ると金庫にしまった。
「じゃあ、行きましょうか」
「おう、行こう」
 ビリーは地図をメモリーに焼き付けてからマックスと部屋を出て、フォレスト通りへと南下した。フォレスト通りに出ると東に入り、五軒目の邸宅の前で歩みを止めた。表札にはフォーサイスとある。門扉の脇のインターホンを押す。若い男の声で応答があり、マックスが名告った。しばらくすると門扉が開き、フットパスを歩く。今度は玄関の扉をノックする。若い燕尾服を着た男が出てきた。その男が二人をリビングへと案内し、ソファに座って持つように指示した。しばらくして白髪混じりの男がやって来た。
「デビット! オレ、分かるよな。マックスだよ」
「おぉ、マックス・フォン・ユンカー。懐かしいなぁ」
「生きてるとは思わなかったよ」
「はははっ。戦争の時、はぐれてしまったからな」
「彼、恋人?」
「違う違う。執事だよ」
「そうかぁ。あぁ、よかった。ありがとな、ビリー」
「いいえ」
「そちらさんは誰かな」
「ビリー・トマス・シュナイダー。初対面なのに色々とよくしてくれた人。オレと同じタイプX-Ⅲ」
「そうかね」
「正確には元アンドロイドのバイオロイドです」
「どういうコト?」
「親分が飲み食いできるように改造してくれたんです」
「へぇ、すげぇなぁ」
「じゃあ、何か飲むかね」
「では紅茶を」
 デビットは執事に紅茶を二つ頼んだ。マックスは嬉しそうにデビットと喋っている。ビリーも嬉しかった。この二人は奇跡だと思った。ビリーは恋人の亡骸を抱いて、しゃがみ込んで泣いていたクチだ。実際羨ましかった。