小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
novelistID. 31338
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ゲイカクテル 第3章 ~ DANGEROUS ~

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
その頃、アレックス達が住む洋館の横に、ロゴスのお抱え運転手のエリク・クレイグが車を停めた。中から手錠付きのアタッシェケースを持ったガイが降りてきた。洋館に入ると、真っ直ぐに一階に住む家主のレーマンに挨拶をしに行った。呼び鈴を押す。
「誰だね」
「ガイ・マシューです。御挨拶にあがりました」
 鍵を開け、チェーンを外す音がしてドアが開いた。ガイはリビングに通された。
「飲み物はいらんな」
「はい。結構です」
 二人は向かい合わせに座った。ガイはアタッシェケースを横に置いた。
「物々しいな」
「あぁ、これですか。ロゴスのムニョスへの上納金です。アレックスに運ばせようと思って」
「わざわざ使わんでもいいだろうに」
「ムニョスがアレックスに用があるそうで」
「そうか。厄介事は持ち込むなよ」
「それは重々承知です」
「ならいいが」
「レーマンさん、お元気そうで何よりです。安心しました」
「もう行くか」
「はい。お元気で」
「ありがとさん」
 ガイはレーマンに見送られ、部屋を出た。蛇腹格子のエレベーターに向かう。エレベーターに乗ると五階のボタンを押した。エレベーターが昇っていく。五階に着き、五〇二号室の呼び鈴を押す。ドアには小さく金文字でオール・トレード商会と記されている。応答があり、ガイが名前を告げるとドアが開いた。アレックスはガイをリビングに通し、紅茶とスコーンを出して座った。
「元気そうだな、アレックス」
「あぁ、おかげさまで」
「オレの方もまぁまぁだよ」
「リチャードはどうなるんだ」
「正当防衛でいけるよ」
「そうか。で、用件ってなんだ」
「これ」
 手錠付きのアタッシェケースをガイは見せた。そして持っていた鍵で手錠を外し、アレックスの方にやった。
「これを運べっていうのか?」
「ロゴスがそう言うんだ。ムニョスに上納金を届けてきてくれないか。ついでにムニョスも何か用があるらしい」
「やっぱりか。今朝ロゴスに言われた時、なんとなくそんな気がしたんだ」
「これ、オーランド郡行きの特急汽車の片道切符」
「はいはい、行ってまいりますよ」
「やる気ねぇなぁ」
「スーツに着替えてコート羽織ってくるよ。ちょっと待ってて」
 アレックスは自室に入っていった。クローゼットを開けてワイシャツから着替える。ネクタイも締める。スーツを着てコートを羽織って自室を出てきた。ガイはアレックスの利き腕とは反対の右手首に手錠をはめた。切符を手渡し、アレックスは財布の中にしまう。
「鍵はムニョスが持ってるから。帰りは手錠しなくてもいいからな。じゃあ、頼んだぞ」
 そう言ってガイは出ていった。またレーマンに挨拶をして、エリクの待つ車に乗り込んで弁護士事務所に帰った。それと入れ違いでビリーが戻ってきた。
「やっぱりオーランド郡行きですか」
「今日の切符まで貰ったよ。そっちはどうだった」
「麻薬課の刑事さんがいました。ゲイカクテルを渡しておきました。ビアンカの名前は出してません」
「そうか。それでいいと思う。たぶんオーランド郡は一泊になると思う。留守よろしくな」
「分かりました。いってらっしゃい」
「はいはい。行ってきますよ」
 アレックスは乗り気じゃなかった。トボトボと家を出て、広場を通ってアネッサ通りを北に歩く。駅に着くと時計と切符を見る。すると発車まであと五分だった。急いで乗り込み、席を探すと禁煙席の個室だった。これはゆっくりできる。オーランド郡まで約一時間半の旅路だ。特急汽車は各郡の中央駅にしか停まらない。つまり隣りのサザランド郡中央駅とオーランド郡中央駅にしか停まらないコトになる。
 発車時刻になった。快適な汽車の旅の始まりだ。外の風景を見る。オルテガの丘が見えた。三十分もすると外の風景が一変した。延々と穀倉地帯が広がる。サザランド郡に入った証拠だ。サザランド郡は米、麦、芋等の一大生産地である。また十五分もすると景色が変わる。目の前に広がるのは平屋の家屋ばかりで、高い建物は見当たらない。オーランド郡に入った証拠だ。紛争が終わって十一年が経つのに、オーランド郡は寂れたままだった。悲しいコトである。酒屋潰しの夜以降、酒場は地下に潜り、ネオンも消した。それは寂しくなるはずである。一般客が入りにくくなっているのだから流行るはずもない。酒屋は露店でやっているらしいが、やはりそれでは家吞みに走ってしまうだろう。
 そうこうしているうちに、オーランド郡中央駅に着いた。汽車を降りる。改札を出て車寄せに行くと、一台の高級車が居座っていた。車の前でムニョスの運転手、ハーレー・ハッキネンが煙草を吸っていた。
「よっ、ハッキネン」
 ハッキネンは驚いて煙草を取り落した。
「あぁあ、もったいない」
「ほんとだね。元気だった? ミニッツ・サンダース」
「おかげさまで」
「そっか。じゃあ、後ろに乗って」
「了解」
 ミニッツ・サンダースとはアレックスがオーランド紛争で使っていた偽名である。いつの間にかオーランド郡では定着している。車の中から見た風景は汽車の中からのよりはマシだった。ただ寂れた感は否めなかった。
「どう? オーランドは」
「あんまりよくないね。少なからず共和国のコトがあるからねぇ」
「そうかぁ。ムニョスも大変だ」
「う~ん。ムニョスさんは共和国難民をオーランドに住まわせてるし、商売もさせてるしねぇ。まぁ、マージンは取るけどね」
「ふ~ん。じゃあ、共和国料理屋とかあるんだ」
「あるよ。結構いけるよ」
「確かに。スパイやってる時によく食べたからなぁ」
「あっ、そうか。そうだよね」
 車は真っ直ぐムニョス邸へと向かった。ムニョスの仕事が気になる。わざわざミニッツ・サンダースを指名してくる意図が分からない。ただ厄介だというコトだけは分かる。そうでなければロゴスか、親衛隊の四人組の一人を行かせるはずだ。何があるんだろう。アレックスの頭は今、高速回転していた。
 そうこうするうちにムニョスの邸宅に着いた。用心棒達が門扉を開けると、車は玄関先の車寄せに停まった。ハッキネンは先に降りて、後部座席のドアを開けた。アレックスは礼を言って降りた。そしてハッキネンは玄関を開け、アレックスに先に入るよう促し、中に入ると先に立ってムニョスの部屋に案内した。ノックをして、アレックスが来たコトを告げるとドアが開いた。ムニョスは葉巻を吸っていた。
「おう、ミニッツ・サンダース。よく来たな」
「お久し振りです」
「ロゴスの上納金は持ってきたか」
「はい。この中に」
 アレックスはアタッシェケースを掲げて見せた。ムニョスは机の引き出しから鍵を取り出すとアレックスに歩み寄り、手錠を外した。アレックスは右手首をさすった。ムニョスはソファに座り、アタッシェケースを開いた。
「どれどれ。ちゃんと五千万バックスあるかな」
 ムニョスは札束を数え始めた。百万バックスごと封がしてある。
「おぉ。ちゃんと五十束ある。ロゴスの奴やるなぁ」
 ムニョスは感心していた。
「ところでムニョス。用があると聞いたんですが」