待雪草
太陽がいつもより大きくなったような、そんな気がする年の冬の日でした。私は毎年決まって、生まれ村の冬祭りに帰ってくるのです。もう二十へと差し掛かる頃になりまして、その心は期待というよりは望郷に変わっておりました。それに、密かな想いもあったのです。
その方の名は冴様といいました。数年前の冬祭りで見合って以来、彼と会うことも一つの楽しみになっております。気になった私は、冬以外にも何かと理由をつけては故郷へ立ち帰ることが多かったのですけど、どうしても彼の姿を見つけることが出来ませんでした。しかし、それでいいと思いました。冴の名を持つ彼は、冬の空の下でこそ映える、そんな氷のように澄みわたった御方だったからです。
そんな彼が、その年はどうにも饒舌なのでした。しきりに私に何かを与えたがったり、世話したがったりするようなのです。一人の御仁というより、或いは父のようにも感じられました。私の胸は何故か痛みます。
――今年は日が強かった
祭りの夜、村を見渡せる丘へ登った私の横で、そう彼は言います。私はくすりと笑いながら「そうですね。でも、まだ終わっておりませんよ」と返すのです。
――それはそうだ
彼は困ったような顔をしました。歯切れが悪いその様子に私は「どうかしたのですか」と尋ねます。待雪草と言うのでしょうか、そのような小さく白い花が服を着たような彼は、ひょっとすれば枯れてしまう直前のように弱々しく見えたのでした。
――どうにもおかしいのだ。貴女と過ごしたのはたった数回の祭りだけであったはずなのに、それ以上のものが溢れてきて仕様がない。
こんなときにとは思わないでくれ、彼は言います。私は彼の頬に触れました。何も言うことなどありません。それだけで、私の想いが伝わればと思います。「ありがとう、すまない」とも彼は言います。やはり私は、何も言いません。
私達は汚れるのを気にせず、丘に寝そべります。未だ乙女であった私は、繋いだ手から伝わる体温に顔を赤らめずにはいられませんでした。それでもふと横を見て、私は気付くのです。
――暗闇では隠せていませんよ