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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
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ゲイカクテル 第2章 ~ SILVER BLUE ~

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その夜、夕飯を食べ終えたビリーは、アレックスに断わって夜の街へと繰り出した。シルバーブルーの情報を得るためである。真っ直ぐにレインボー・ストリートのクラブ・ダンテへと向かう。ヨハンはいつも通り客引きをしていた。ビリーが声を掛けようとしたら、先にヨハンが気付き、声を掛けてきた。
「よう、ビリー。どうした?」
「こんばんは。元気そうですね。ちょっと情報が欲しくて来ました」
「情報? なんの?」
「トーマスとリチャードの件は知っていますか」
「あぁ、聞いてるよ。ヤクがらみだってな。ちょうどアネッサ通りの先のホランド郡中央駅前でやり合ったんだってな」
「そうです。そのヤクのコトなんですが、シルバーブルーっていう名前知りませんか」
「共和国産のだろ? 知ってるよ」
「えっ!? 知ってるんですか? 麻薬課も知らないんですよ」
「知ってる知ってる。シルバーブルー、またの名をブルードラゴン。通称ゲイカクテル」
「どういうコトですか」
「シルバーブルーは色。シルバー二錠とブルー一錠だから。ブルードラゴンはブルーの錠剤にドラゴンの刻印があるから。ゲイカクテルはゲイの間で流行っているから」
「そうなんですか。じゃあ、ヴェロニカ通りで流行ってるんですね」
「そっ。通称ゲイストリート」
「出所は知ってますか」
「出所かどうかは知らないけど、ビアンカって奴が売ってるらしいよ」
「ビアンカ!? あの銀髪の?」
「たぶんそいつ。知り合い?」
「昔、私が遊んでいた頃のセックスフレンドの一人です」
「ふ~ん。そうなんだ」
 ヨハンは興味なさそうに言った。ヨハンはビリーがゲイだというコトを知ってはいるが、基本が女好きなためよく分からずにいた。男に惚れるという感覚は男気にというコトであって、セックスの対象というコトではない。ヨハンはゲイの感覚は分からないが、差別する気はない。この商売をやっている以上関わりがあるので、普通に話はできる。恋愛以外はなんらストレートと変わらない。
「まだジェット・ストリームなんですか」
「そうそう、そこ。いつもそこのVIPルームで呑んでるってさ」
「ありがとうございます。これ、情報料です」
 ビリーは財布から一万バックス紙幣を三枚取り出してヨハンに手渡した。
「おっ、ありがとう。じゃあな」
 ビリーはもう一度礼を言ってヨハンと別れた。レインボー・ストリートから一旦広場に戻り、西隣の通りのゲイストリートに入った。中程より線路寄りの左側にジェット・ストリームはある。ここはゲイのホストクラブで、綺麗なお兄さんが揃っているので有名だ。体育会系ではなく、ただおしゃべりを楽しむ所だ。アフターも同伴出勤もなし。ネオンもなく、黒を基調としたシックな店構えだ。扉には金のプレートでジェット・ストリームと書いてあり、赤い木製のバーが目立つ。
 ビリーは扉の左右にいる用心棒にお辞儀をして、バーを引いて中に入った。店内は間仕切りのないソファ席が幾つかとカウンター席とがある。ビリーは受付でビアンカが来ているかと聞くと、VIPルームにいるという。ホストの一人が席を立ち、ビリーをVIPルームに案内した。そのホストはビリーの顔をチラチラと見た。ビリーが綺麗な容姿をしているのが余程気になるらしい。ホストがVIPルームのドアをノックする。
「ビアンカさん、お客様です」
「通して」
 ドアを開くと、ビアンカことビアンカ・フュリーが十人のホストとソファで酒を吞んでいた。ビリーが中に入るとビアンカは驚いて飛び上がり、駆け寄ってきた。
「おう、ビリー! 元気にしてたか。久し振りじゃないか!」
 そう言うとビアンカはビリーに抱きついた。ビリーは十人のホストから嫉妬と羨望の眼差しで見られた。
「何年ぶり? 五年くらい?」
「はい。五年ぶりです。お元気そうで何よりです」
「相変わらずだなぁ、ビリー」
 抱きつくのをやめたビアンカは、ビリーの頭を軽く叩いた。
「何飲む? 酒は駄目だったよね。ねぇ、ソフトドリンクのメニュー取って」
 一人のホストがメニューを持ってきた。ビアンカがビリーに見せる。
「ジンジャーエールでお願いします」
「オレのおごりだから遠慮はいらないよ」
 メニューを持ってきたホストがVIPルームの冷蔵庫を開け、中からジンジャーエールの瓶を取り出した。栓を抜いてグラスに注ぎ、ステアしてテーブルの上に置いた。ビリーとビアンカはソファに歩み寄った。
「仕事の話がしたいんですが、人払いをお願いします」
「分かった。悪いけど、君達ちょっと部屋を出てくれないかな」
 ホストは一斉に立ち上がり、VIPルームを出ていった。ドアを閉めると廊下に並んで、ビアンカの呼び出しを待った。
 ビリーとビアンカはソファに座った。ビリーはジンジャーエールのグラスを、ビアンカはドンペリ・ピンクのグラスを持った。
「再会に乾杯」
 ビアンカはそう言うとビリーとグラスを合わせて、互いに一口飲んだ。
「それで、仕事の話って何?」
「ゲイカクテルのコトです」
「欲しいの? 馴染みだから安くしとくよ」
「ありがとうございます。実は今度、私を含めて六人でパーティーをしようと思ってるんです。それでちょっと欲しいなと思って」
「いいよ。いついるの」
「まだ日にちは決まってないんですけど、1か月以内にするつもりです」
「分かった。でも今、在庫ないんだ。1週間後に取引があるから間に合うと思うけど」
「分かりました。1週間後ですね。また来ます」
 用が済んだと思い、ビリーが席を立とうとしたら、ビアンカがスーツの袖を引っ張って、座れと引き留めた。
「お金だけど、一人分タダにして、一人頭五万の二十五万バックスでいいよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「仕事の話は終わり? 世間話しよ」
「いいですよ。仕事はどうされたんですか。建築会社で設計担当してましたよね」
「三年前に辞めたよ。で、そっからロゴスさん公認のヤクの売人になったの」
「そうなんですか。凄い転身ですね」
「ビリーは? まだ商社で事務してんの?」
「はい。今は課長です。これ、新しい名刺です」
 ビリーはカモフラージュの名刺を財布から取り出し、ビアンカに手渡した。名刺にはバンダーベルク株式会社事務課課長ビリー・ザンダーとだけ書いてある。
「へぇ、出世したんだ。前は係長だったもんね」
「そうですね。それはそうと、ゲイカクテル扱っててもいいんですか?」
「バレなきゃいいよ」
「でもトーマスの件があるじゃないですか」
「そうだね。でもあいつは下手だったから。駅前で立ちんぼしてんだもん」
「でもマズイですよね。怖くないですか?」
「大丈夫だよ。ゲイストリートはロゴスさんの管轄外だもん」
「それはそうですけど……」
「大丈夫、大丈夫。オレは上手くやってるから。オレがゲイカクテルのホランド郡のボスだもん。下っ端は何も知らないって」
「ボスなんですか!?」
「そう。だから大丈夫」