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もう一度、はじめましょう

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「本当に、ありがとう。キミがいてくれて、楽しかったよ」
 ワズは、ベンチを立った。そのまま背を向け、公園の出口へ向かう。
 彼は、この後、車に撥ねられて死んでしまうのだ。大型トラックに撥ねられ、地面にぶつかり、死んでしまう。
 黙って、それを待つことしか、できない。死神なのだから、掟を守らなければならない。
 玲は、席を立って、ワズの後を追った。

◇◆◇◆

 はじまりから、2週間が経過した。ワズは、一人ゲームに没頭している。そろそろ、大学へのレポートを書かなくてはならない頃だ。
「……ボク、なんで生きているんだろう」
 あの日。トラックに撥ねられそうになった、己の体を、後ろにいた玲が引き寄せたのだ。すぐに、あのトラックで自分が死ぬはずだったのだと悟った。それと同時に、玲がなぜそんなことをしたのか、と疑問で頭がいっぱいになった。
“ねぇ、なんで?”
 返ってきたのは、重苦しい嘆息だった。
“……なんで、だろうな”
 それだけ返して、彼は消えてしまった。気配も、感じなくなった。
 それから無事に帰宅できたところから、危機はあのトラックだけだったらしい。あれさえ乗り越えれば、自分は死なずに済んだのだ。
(だけど、その代償が分からない)
 少なくとも、ワズ自身に降りかからないのは確からしかった。それは全て、掟を破った玲に降りかかる。
 以前、話してもらったことがある。掟を破った死神の、末路を。
(地獄に落されるかもしれない。存在を消され、誰にも認識されなくなるかもしれない。それから、氷漬けにされるかもしれない、とも言ってたな)
 どうなるかは分からないが、ロクなことにはならないな。そう、彼は苦笑しながら言っていた。そして、それを、彼自身で味わうことになってしまった。
(ボクのせい、だよね……)
 彼が、こんなことを起こしてしまったのは。かと言って、何かができるわけでもなく。ここ1週間は、そう自問自答しながら、ひたすらゲームに勤しんでいたのだ。
 肺に溜まった重苦しい空気を一気に吐き出す。少しだけ、体が楽になった。
 すると、滅多にならないインターホンの音が、家中に響き渡った。
「? 誰だろう」
 そういえば、今朝からトラックが隣の家の前に止まっていた。隣の家の人は数日前に引っ越したはずだから、もしかしたらそこの新しい住人かもしれない。
 部屋から出て、サンダルに履き替えて、ドアを開ける。
「はいはーい、どなたですかー」
 ドアを開けた先にいたのは、細見で長身の男性だった。長めの髪を結っている、中々に美人顔の、そして――つい最近まで、見ていた、顔の。
「隣に越してきた、黒岩と申します。ご迷惑をおかけするかとは思いますが、何卒よろしくお願いいたします」
 お近づきの印に、と渡されたのはクッキーの詰め合わせだった。それは確か、引っ越しした隣人がくれたものと同じで、玲の目の前でも食べていた。
 ワズは、笑った。こんなに早くに会えるなんて、思いもしなかった。
 彼はきっと、あの日々も、死神のことも、覚えてはいないだろう。だけど、いつか思い出したらその時は、なぜ自分を助けたのか、助けた後何があったのか、全て聞いてやろうと思った。
「ボクはワズ。よろしくね、――れーくん」