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モンスターペアレント

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そして、2時間目の終了の号令がかかったあたりで突然それは起こった。
盗聴器が巻き戻しにされていくのだ。
「何だ、どうなっているんだ! ? 」
突然の出来事に思わずパニックになるが冷静になり考える。
盗聴器の録音時間を超えたのだ。
考えてみればこんな小型の盗聴器だ。
録音時間なんてたかが知れてる。
「だったら、和美さんは何故5時間目の授業中に盗聴器なんて握ってる必要あるのだ? 」
少し考え、ある仮定が思いつく。
もしも、盗聴器が複数個持っているならば。
「5時間目の途中で盗聴器が切れてしまい替えの盗聴器を使おうとした所を僕に気づかれたとするならば……」
彼女はまだこれ以外に盗聴器を持っていることになる。
そこまで考えが至ったとき、チャイムが鳴る。
盗聴器からではない、学校のスピーカーからだ。
「まずい、次の時間だ」
次が今日の最後の授業だ。
恐らくは授業中も録音され続けているだろう。
だが、もうそんなことはどうでもいい。
一刻もはやく、彼女から昼休みの音声が入った盗聴器を回収せねば……。
教室へ向かう足は心なしかいつもより早い気がした。

「これで、本日の授業は終了です。今日もお疲れ様でした。気をつけて帰ってください」
号令をかけ、児童たちが喋りながら今後の予定を話し合っている。
先生の「僕」も今日はこれで終わりだ。
さて、僕も動かなければ……。
「和美さん。お渡しするものがあるので職員室へ来ていただけますか? 」
和美さんに声をかける。
「分かりました」と一言だけいい、帰り支度を整えている。
先に職員室へ行ってるとしよう。
なんとしてでも、手に入れなければ……。

「失礼します」
職員室の扉が開き和美さんが入ってくる。
「和美さん、こっちですよ」
僕は手招きして和美さんをこちらへ誘導する。
「あの、お母さんから預かった機械を返していただきたいのですが……」
本人もやはりそれが気がかりだったのだろう。
だから、僕もまずはそこに揺さぶりをかける。
「ええ、返しますよ。あなたが持っている全部の機械を一回預けてくれれば」
それをいうと、普段あまり感情を表に出さない和美さんが珍しくうろたえた顔をする。
「え、先生。どうしてそのことを知ってるの…? 」
その疑問も最もだ。
だから、僕は包み隠さず言った。
「申し訳ないのだけど君から預かった機械なんだけどね、中身を聞かせてもらったよ」
そういうと、和美さんの顔がどんどん青ざめる。
僕は詰問する。
「和美さん、先生のことをつけてたでしょ?」
ストレートに質問する。もはや言葉は選んでられない。
「……はい」
素直に認めた。もはや隠し通すことは無理だと思ったのだろう。
「どうして、そんなことしたのかな? 」
少なくとも、本人の意思ではないはず。あるなら、それは親のほうだ。
「お母さんに「「先生の行動の全てを録音しなさい」」って…そうしたらおうちにお金が入るって……」
そこまで聞き、合点がいった。
やはり、この子の親の目的は僕の不倫現場を録音し僕に揺すりをかけてお金をせしめるって寸法だった。
前々から僕は周囲から不倫をしているのではないかという疑惑の目が向けられていた。
同僚の女性とプライベートで会っているところを度々、近所の住人に見つかっていたからだ。
別居中とはいえ、まだ離婚してない僕が職場の同僚の女性教員と関係を持っていることがバレれば僕は全てを失うことになる。
そして、ついに掴んだ動かぬ証拠が4時間目の昼休みの川島先生との会話なのだ。
ここで僕は彼女にプロポーズを行った。
人目を十分に気にしたが、恐らくはしっかり録音されているのだろう。
事の顛末を知った僕の顔が怖くなったのか、和美さんは泣き出してしまった。
「ごめんなさい、先生……ごめんなさい……」
泣きじゃくりながら、謝罪の言葉を並べる。
この子は悪くないのに。悪いのはこんな事をさせる「お母さん」なのだ。
ならば、僕も手を打とうとしようか。
「和美さん、いや、和美。お父さんの言うことが聞けるかい? 」
お母さん。つまりは僕の妻は「私たちには関わらないで」といった。
だから、僕は実の娘である和美にも他人行儀で接してきた。
関わってはならないからだ。
だが、そっちがそうくるなら、こっちもそっちの弱みを掴ませてもらう。
ここからは先生ではない、平気で子供を傷つけるお父さんの「僕」だ。
「和美、お父さんの言うことが聞けたら、また3人で一緒にくらそうか? 」
だったら、僕も娘を利用させてもらう。
「本当に? 」
まだ赤い目を擦りながら、純粋な目で和美が見てくる。
「ああ、もちろんだ。それじゃあ、これから言う事をよく聞くんだぞ」

この勝負、負けたものが本当のモンスターペアレントになるのだ。
作品名:モンスターペアレント 作家名:久遠