欲望の果て
「おーおー何でも言いなさい、今回お前のお陰で赤城が五菱から持ってきた数字を考えると新興一の数字を獲得した営業に匹敵する成果じゃからな、年数は掛ったがこれは凡人の成せる業ではない、さすがわしと母さんの自慢の娘じゃ」
「まだまだこれからでしょうお父様もっともっとおおきくするわよ」
「おおー智香はわしよりも野心家で商才もあると見えるお前のような娘を持ってわしは嬉しいぞ・・それにしてもあの赤城と言う男は完全に気付いて無かったようだな、わしと智香が親子であり移籍に関しては五菱の数字の吸収だけが目的である事を色に狂う男は時として全てが見えぬ事があろうもんじゃな」
「そうね彼に入りこんで移籍の打診がある話をしたら直ぐに食いついて来たし、もっと調べられるかとヒヤヒヤしてたけど私を完全に信用していたみたい」
「上席もクビにしたことだし一緒に連れて来た若いのはどうする?わしはどっちでもいいぞ」
「そうねえ・・生きてたら使ってやってもいいんじゃない?・・生きてたらだけど・・」
「ん?どーゆう意味じゃ?」
「ううん、何でもない独り言・・・」
雨が降り続く樹海も朝を迎えた・・目を覚ました涼子は自分の置かれている状況が非常に困難である事は直ぐに理解できた。
何故こんな密林に純一郎と二人でずぶ濡れでいるのか・・・
「純ちゃん、起きて、純ちゃん・・」涼子は疲れて熟睡しきっていた純一郎を揺り動かした、しばらくすると純一郎は眼を覚ました
「ん、酷い雨だな・・・」
「純ちゃん、一体どーゆう事?私達保養所にいたのにどうしてこんな所に?混乱してわけわかんないんだけど」
「俺もよくわからん・・・」純一郎はそう言うとうつむいて項垂れた・・・
「ココ何処?何でココに居るの?出口はどっち?」涼子は矢継ぎ早に純一郎に問うた
「出られないし、わからないよ」言葉なく純一郎は言った
「どうしてよ?覚えてないの?一緒に来たんでしょ?」
「だって樹海の奥深くだもん」何処に居るのかもわからないし、自殺の名所だけあって外部と遮断されてる感があるしね
「死ぬの?」涼子は寂しく言った
「その可能性が高いね」
「そんなの嫌・・・」ポツリと涼子は囁いた
「私はまだやりたい事が沢山あるのにこんな所で死ぬなんて嫌よ、純ちゃんはどうせもう直ぐ死ぬんだから良いかもしれないんだけど私はまだまだやりたい事あるんから、折角これからって時なのよ・・・それなのに・・」
自分の直ぐに死ぬ事を知っている涼子の言葉に純一郎も激しく反応した
「俺がもう直ぐ死ぬってどういうことだよ、それに涼子がなぜ知っているんだ」
「貴方ねすい臓癌であともっても6カ月だって、和君が言ってたのよ」
「何で和彦が俺が癌って知っているんだ?」
「貴方の会社の健診を見せたのよ和君に、そしたら和君が直ぐに診断をしたわ、もっとも結果は貴方には知らせなかったけど・・」
「どうして?癌なら直ぐに手術すればなんとかなるだろうに・・まさか涼子お前・・・」
「そうよ、そのまさかよ・・何もしなければ6カ月後には貴方は死ぬわ・・・そうすれば私は貴方の保険金と遺産で新次郎と仲良く暮らして私も好きな事をするわ」
「何て事を・・・・」
「良いじゃない、そんな事を言い返せるわけ?貴方なんて好きな事を散々やってもう満足でしょう?仕事で飛び回って、帰って来たと思ったら女作って、私や新次郎なんてどうでも良いのよ、次は私の番よ、それに殺すわけじゃないのよ病気で死ぬんだから私は何も悪くないわ・・・・悪くない・・・でも結局この様ね・・罰が当たったのかもね・・・」声を荒げた涼子だったが自分の置かれた状況を把握すると力なくその場にへたり込んだ
「そうか、そうだったのか俺はあと6カ月なのか・・」
涼子に言われた事の自己反省と罪の意識で純一郎は先程までの反旗の力はまた消えてしまった
「涼子実は俺も話す事がある・・・」
純一郎は今に至った経緯を涼子に話した・・眠らせて絞殺して樹海に放置する事を・・そして今美沙に裏切られてこの状況にある事も
紛糾して怒るかと思われた涼子だったが降りしきる雨の中晴れ晴れとした顔で言った
「お互い殺そうと思って一緒にいたのね、こんな旅行も面白いわね・・・お互いを殺そうと思っていたら二人とも死ぬ羽目に・・」
「純ちゃんどうせ死ぬなら最後にもっと貴方を知っておきたいわ・・私ももっと純ちゃんに知って欲しいし誤解されたまま純ちゃんに死なれたら私の汚点だわ」
すっと涼子は立ち上がると座りこんでいる純一郎に手を差し伸べた・・涼子の手をとり純一郎は涼子と向き合うように立った
お互い向き合うと額を合わせると自然にキスをした・・激しく反抗していた感情は同じ方向にぶつかり合い二人は激しく求めた、体裁も見栄もイメージも関係なく、ただ本能の求めるオスとメスのように・・降りしきる雨のなか二人の周りには木漏れ日がステージのスポットのように照らし出していた。
車の止めてあった位置より密林を掻き分けて警察と一緒に二人を探していた和彦は木の陰より二人を見つけた・・
二人の交わりを暫く見つめていた和彦は果てる瞬間を見届けると来た道を戻った・・
樹海より救出された二人はやがて元の生活に戻っていた。赤城の死により純一郎のすい臓がんの疑いは赤城との資料の渡し間違いと分かり純一郎は健康であることも判明した。美沙は純一郎の生還により保険金を手にする事が出来ずに終わり、秋葉は純一郎が五菱に戻った事により部署の解散と同時に左遷された
純一郎と一緒に戻った松下綾夏は専務となった水島の部屋にいた。
「お父様の計画がこんなに謀略家とは思わなかったわ」
そう、松下綾夏は水島の娘である、水島は創業家に婿養子で入籍の為、水島となっているが旧姓は松下であった。社内では縁故や身内の批評を嫌う為綾夏は敢えて松下の性で入社していたのである。芹沢と赤城の動向を察して信用のおける自分の娘を純一郎の基に送ったのは水島の考えであった。
「そうかい・・かつての江戸を中心に天下泰平を成し得た徳川家康も静かに物事を考えたモノだ・・焦らずじっくりと事は仕込むモノだよ。」
「でも、健康診断の結果を芹沢室長と赤城専務をすり替えただけでここまでになると思っていたの?ホントは単に赤城専務の治療が遅れれば良いと思った程度じゃないの?それに芹沢さんが健康診断の結果を開封していたら大変な事になってたかも!」
現にそのせいで大変な事になったのはこの二人は知らない・・。
「何、芹沢君は大丈夫だよ、過去に一度も結果表を自分で見た事ないって言っていたし病気とは無縁と豪語していたからしばらくは見ないだろうとみたんだがね・・」
「まあ、結果良ければ全て良しって事ね・」
「海外の一部を新興に持って行かれたがその分は戻った芹沢君が取り戻してくれるだろう厄介な赤城は消えたし芹沢君ならコントロールし易い綾夏も引き続きしっかりと芹沢君に付いておくんだぞ・・」
「はーいお父様の期待に添える様に頑張るわ・でも芹沢さんて素敵なのよ近くに居る様になって益々そう感じるの・・ちょっと危ない展開になりそうな気も自分でしちゃうの」
「おいおい・・彼には妻子がいるんだぞ綾夏わかっているんだろう?」
「もちろんよ・・だから余計に魅力なのよ」