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【短編】Lost Our SweetHeart

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「可哀想になあ。これからだって時に」

 検死官がぽつりと呟いてブルーシートの下の遺体に向けて手を合わせた。血が染み込んでどす黒くなった地面を忌々しそうに蹴って中年の刑事が呟く。

「あの子、ガイシャとの間の子供が腹にいるんだって?」
 その問いに若い刑事が頷く。メモを見ながら若い刑事はすらすらと続けた。
「刈谷睦月。家族にガイシャ、田原兼治との交際を認めてもらえず、二ヶ月半前の妊娠発覚をきっかけに家を飛び出して彼の家に住んでいたようです」
「いい子だった娘が妊娠して家出とはねえ」
「テレビなんかに出て大事になってしまって困ったらしいんですけど、妊娠してることもあって中々出てこられなかったようで」
「へえ」
 興味なさそうに腕を組んだ中年刑事に若い刑事は感慨深そうに告げた。
「……彼女、もう子供の名前も決めていたそうです。彼の名前、本当は『かねはる』と読むのにケンジって読まれてばかりだから、今度こそ子供にはケンジって名前を付けるんだと。可哀想になあ」
「そんなことよりホシはなんだってこんなことをしたんだよ、恋愛のもつれか?」
「いや、それが」
 若い刑事は困ったように頭を掻いた。
「ホシと刈谷睦月は一度も会ったことがないらしくて」
「なんだと?」
 中年刑事に睨まれて若い刑事は身を縮めながらも反論する。刈谷睦月本人がそう証言しているのだと。一度も会ったことのない人間に恋人を殺され恐ろしくて悔しくて仕方ないのだと言っているのだと主張すると、中年刑事は頭を抱えた。
「じゃあホシの言ってることは何なんだよ」
「あながち全てが嘘って訳でもなさそうですけどね」
 若い刑事が手帳をめくる。確かに事件当夜、刈谷睦月は田原兼治と喧嘩をして家を裸足のまま飛び出したらしい。それはいい加減に家に帰れと田原兼治に叱られ、刈谷睦月が臍を曲げて勢いで外に飛び出したという事情だったそうだ。そしてそれを追おうとした田原兼治は犯人に刺され、頭が冷えて帰って来た刈谷睦月がその現場を発見したということだった。
「折角デートマーダーが捕まって休みが取れると思ったのになあ…」
「まあ、無事両件ともに検挙ということで。いいじゃないですか」
 よかねえだろ、と中年刑事は若い刑事の頭を叩く。その頃の夜のニュースでは、デートマーダーが捕まったと言うニュースと並行して不可解な殺人事件についての報道がちらほら始まっていた。