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「お前にはニーナがいるだろうニーナが。結婚の約束をしてるんじゃなかったのか」
「あいつはボインにはほど遠いんだよ。それにニーナは俺といちゃラブしながら将来設計を語り合うような可愛らしい性格してねーんだ」
「そんなにいちゃラブしたいのか?」
「したいしたい。お前がやってるみたいに」
「誰がそんなことするか!」
「うそつけ。婚約者からの手紙、届くたんびに締まりのない顔して読んでんのどこのどいつだよ」
「そういうお前こそ、酔っ払って女の話になるとニーナのことしか話さなくなるだろうが」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 しばしの無言の睨み合いの後、俺とリュスは恥ずかしさのあまり二人揃って悶えたのだった。


 汽車で移動すること三日間。
 俺たちは無事、セルツ地区へ入ることが出来た。
 目指すは荷物の受け渡し場所。そこでフォスターという人に荷物を渡せば仕事は完了だ。今までは思ったよりずっと順調だったから(ビバ電車の旅)、このまま何事もなく終えたいところだ。
「ただ・・・問題はここからだよな」
 セルツ地区は二つのマフィアによって支配されていることで有名なところだ。両方ともかなり大きくて力が強いらしく、地区内は警察の力が全く及ばないらしい。つまり、ここで事件が起こっても警察はあてにならないというわけだ。
「治安も良くないという話だからな。万が一強盗にあっても警察に頼ることはできないんだ。長居はしたくない」
「さっさとフォスターさんに会って荷物渡しちまおうぜ」
 俺たちは地図を見て受け渡し場所までの道順を確認する。おお、結構遠いな。それに枝道が多いみたいだし、迷わないように気を付けないと。地元の人に案内してもらえれば楽なんだろうが・・・
「おい。お前たち、見かけない顔だな」
 突然話しかけられて俺たちは地図から顔を上げた。
声の主は黒服サングラスのデカいお兄さんだった。なんていうか、すごくいかつい。雰囲気ありまくりである。それに・・・・・なんかすごくマフィアっぽいような・・・はは、まさか。
「俺たちはただの配達人ですよ。何か用ですか?」
「フォスターに会うと言っていたな? なら、その荷物をこっちに渡せ」
 俺が答えた途端、黒服のお兄さんはドスの効いた声を出し、怖い顔で睨んできた。荷物とはもちろん白い粉が入ったリュックである。さっそく強盗に遭遇してしまったか!? しかし、これを渡すわけにはいかない。
「それはできねぇな。ちゃんと届けなきゃ報酬が貰えないんでね」
「・・・・おい。もう少し考えてしゃべれ」
 隣でリュスが呆れて言う。しかしだなリュス。あのマフィアのお兄さん怖いから多少虚勢を張らないとマジ怖いです。
「渡さないというのなら、こちらにも考えがある」
 言うなりマフィアのお兄さんは懐に手を突っ込むと、黒光りする物を引っ張り出した。こ、これは、まさか・・・・!
「待て待て待て! 銃は反則だろ!」
「命が惜しかったらおとなしく荷物を渡せ!」
 マフィアのお兄さんは銃を向け、お決まりのセリフを吐く。冗談ではない。荷物運びぐらいで命をとられてたまるか。俺はゆっくりと両手を上げて、
「言うとおりにするから命まではとらないで―!」
 ああ、我ながら情けない。情けないとは思うがやっぱり死ぬのは怖いです。隣ではリュスも同じようにハンズアップして、
「荷物は渡すので撃たないでいただけますか」
 淡々という。おまえ、冷静だな・・・・と親友の肝の座りっぷりに今更ながら感心しつつ、俺はリュックを下ろした。向けられた銃口にびくびくしながら、リュックをマフィアのお兄さんに向けて差し出す。ああ、さよなら仕事の報酬。お金は欲しいけど命には代えられない――
「とか言って、誰が渡すかコノヤロー!」
「ぐほぉぉぉぉっ!」
 俺が放った必殺飛び膝蹴りがマフィアのお兄さんの顔面に直撃した。ちょっと、いやかなり痛そうだったが仕方ない。明日からの生活費のため、俺たちは仕事を完遂せねばならんのだ。
「ぐ・・・・お前たちがそのつもりならこっちにだって考えがある。野郎ども! 出てこい!」
 鼻血をしたたらせながらマフィアのお兄さんが呼び掛けると(ちなみに鼻を押さえているので「ふぉまえたちがふぉのふもりなら」と言っているように聞こえる)、同じ黒服のいかついお兄さんたちがどこからともなくたくさん現れてきた。これは本格的にマズい状況だ。
「どうする? リュス」
「どうすると言われてもな。・・・・・・二手に分かれるというのはどうだ? 向こうの戦力が二分の一になる」
「・・・・それって俺たちももれなく二分の一じゃん」
「地の利はあいつらにあるんだ。それなら、固まっているよりも二手に分かれて向こうの数を減らした方がいい。別に俺たちはあいつらから逃げられればいいわけだからな。一人の方が隠れるのも楽だし」
「・・・・おまえ、ひょっとして俺を囮にしようとか考えてないか?」
「よく分かったな」
「おい! 本気だったのか――」
 バーン!
そうこうしているうちに黒服の誰かが発砲してきた。俺たちは逃げ出し、仕方なくリュスの提案通り二手に分かれることにする。
「お前ら逃げるな! 荷物を渡せ!」
「誰が渡すか!」
 目の前の男に渾身の蹴りを食らわせる。まったく、格闘技もたまには役に立つ。俺は黒服たちに容赦ない蹴りを食らわせつつ、受け渡し場所に向かって走ったのだった―――


 ・・・・そうして今に至る。
 弾丸の雨あられを乗り越えて、俺は荷物の受け渡し場所にたどり着いた。
 後はこの荷物をフォスターさんに渡せば仕事は完了。お金をもらった上に、銃持った危ない人ともおさらばできる。
「・・・リュスの野郎大丈夫かな」
 受け渡し場所――小さくて古くてボロい倉庫に親友の姿はない。まさか途中でやられたのかと心配になったが、リュスに限ってそんなことはないかと思い直す。でもあいつたまにボケやらかすからな。それに実は方向音痴。地図持ってるから迷わないと思うけど、地図がないと勘で行動するから道に迷う迷う。なぜか方向感覚だけは全然だめらしい。それと普段は淡白なのに婚約者の話となると真顔で惚気だす。話を聞く限りスゲーいい子みたいなので(会ったことはないが写真は見せてもらった。清楚系の美人でかなりのボインだった)、うらやましいことこの上ない。ちくしょーあいつどうやってあんなボイン捕まえたんだ。ニーナなんてまな板レベルなのに。俺だってあんなボインな彼女欲しい。ていうかニーナおまえもっと頑張れ。
「こんなところで何をぶつぶつ呟いてるんだ」
「うお!? おまえいつの間に!?  ていうかなんで俺の考えていることが分かるんだ。おまえエスパー?」
「声に出てた」
「え、マジ?」
 どこからともなく現れたリュスはその辺で拾ったのか鉄の棒を持っている。きっとこれでマフィアのお兄さんたちをしばき倒したのだろう。マフィアの皆さん、ご愁傷様です。
「ところで受取人はどこだ?」
「もっと奥の部屋だろ」
 言って倉庫の奥の扉を指す。俺たちは扉にそろそろと近付いてドアノブに手をかけた。その途端、扉が勝手に開いた。
「わ!」
「わ! お、お前ら・・・」
「依頼された品物を届けに来た」
作品名:運ぶのもと言えば 作家名:紫苑