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十六夜 ほたる
十六夜 ほたる
novelistID. 45711
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もうすぐクリスマスですね

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「みんなはクリスマス、何か予定はある?」
 掃除用の箒の持ち手を両手で支えながら、つばめがふいにくるりと身体を反転し、自分と同じように箒やモップを持って掃除している二人に投げかけた話題。それに一番に答えたのが同じフロア担当の同級生、冬馬千弦。上を見上げ思考を巡らしているのがキッチン担当、妃奏多。
「そうねー、アタシは買い物に……って言いたいところだけど、姉さんに「クリスマス予定空けときなさいよね」ってもの凄く怖い笑顔で言われたから……荷物持ち、かしら」
「あー……千景さんか。相変わらず荷物持ち、させてんだな」
「そうなのよ。いい加減にしてほしいわ」
「あれ……?千景さんって恋人がいたんじゃ……」
 持っていた箒の柄の先の部分に顎を置いて、はぁっと大きな溜息をつき少し遠くを見つめている千弦に、幼馴染でその光景をしっているのか奏多が「ああ、またか」と言ったような声音で返す。だが、そこにつばめが不思議そうに首を小さく傾けて疑問を浮かべると、千弦は苦笑を溢しながら話し始めた。
「この前別れたのよ。うちの姉さんったら振られるとヤケ食いならぬヤケ買いするから……ワタシはそれに巻き込まれるってわけ」
 まったくいい迷惑だわっ! とぷんぷん音がつきそうなくらい片手を握りしめてあさっての方向を向く千弦に、まぁまぁというように利き手であやす奏多の姿を見て兄弟みたいだなぁと感じるつばめは生暖かい視線で見つめていた。その視線に気が付いたのか、奏多がいつもの無表情のまま「どうかした?」と問いかけてきたため、首と手を横に振りながら「なんでもないです」とつばめが少し慌てて答えると、奏多は小さく微笑みを浮かべてまた千弦をあやしにかかる。
 めったに見れないその微笑みに、とくとくとくと、つばめの胸は高鳴っていた。昼の太陽の日差しのような暖かさが胸の中に広がることを感じながら、後ろから聞こえる千弦と奏多の声を聞きながらまた手を動かし始めた。
 そこで、ふと思う。
 もし……妃さんにクリスマス予定がなかったら……い、イルミネーション見に行きませんかって聞いてみようかな。
「あ、あの……ききき、妃さん!」
「……うん?」
「もし…よければクリスマス、私と一緒に街でイルミネーションを見に行きませんか?」
「イルミネーション?……ああ、そういえば今年は商店街や駅前が力を入れてたっけ」
「そうなんですよ!だ、だから一緒に行けたらなぁ……なんて」
「いいよ。クリスマスなら予定も空いてるし」
「ほ、本当ですか?!」
「本当。なにより、藤咲さんと一緒に居たいしね」
「き……妃さん……」
「奏多」
「え?」
「妃じゃなくて、奏多って呼んで」
「……そ、奏多さん」
「うん、なに?つばめ」
 なんてなんてなんてっ! きゃーっ、私ったら!
 腕に箒を寄りかからせて、空いた両手で自分の頬を挟み己の妄想にいやんいやんと赤くなった顔を横に振っていると、ちょんちょんと控えめに肩を突かれる感覚がした。はっと我に返り後ろをおそるおそる振り返ると、先ほどと位置は変わらないが不思議そうに瞬きをしながらつばめを見る奏多とどこか呆れたような、でもアンタが考えてることは御見通しよと言いたげな表情でつばめの肩を突いたのであろう千弦がいた。
 見られた見られた見られた! そう思うと、自分の顔にぐんぐんと血液が集まりまるで熱湯を頭からかぶったように全身が熱くなっていくのがわかる。
 何より、奏多にあんな変な姿を見られたのだ。問題はそこ。よりによって自分の好きな相手に見られてしまった。つばめが取る行動はひとつ。
「わわわ、わた、私着替えてきますぅうぅぅうぅ!」
 勢いよく半回転しスカートを翻すとばたばたと大きな足跡を立てながら、厨房からその奥にある控室に引っ込んでいった。
 その一連の流れを二人は見守るほか行動の選択肢はなかった。
「つばめのやつなにかあったのか?」
 ハンドタオルで濡れた手を拭きながら、厨房からこの喫茶店のマスターである真が出てきた。
 どうやら顔を赤くさせて飛び込んできたつばめを不思議に思っているようだ。まぁ、それはあたりまえと言ってもいいのかもしれない。普段が大人しい女の子なのだから。
 一緒にフロアを掃除していたならわかるだろうと声をかけてみたが……。二人、いや、千弦が苦笑しながら頭を掻きながら言った。
「悩める乙女心?」
「なんだそれ?」
「さぁ?」
 千弦の答えに首を鳴らしながら奏多を見る真だが、いかんせん彼の望む答えはコミュ障害の奏多にもわかるはずがないのだ。淡々と一言で返されるだけだった。
「でよ、奏多アンタ結局クリスマスは予定があるの?」
 千弦があっさりと話題を戻し、奏多に投げかけた。そんな彼の顔に、どうせ予定なんてないでしょ?コミュ障めと書かれているように見えるのはきっと気のせいではない。だがそれに、彼には珍しく目で見えてわかるほどの得意げな顔をして奏多は答えた。
「朝からバイト」
「クリスマスは店やってないぞ」
「……はい?」
 間髪入れずに真は言った。油がさされていないロボットが手足を動かすような動きで首を動かし真を見る奏多に、胸ポケットから煙草の入っている箱を取り出しながらもう一度。
「だから、クリスマスもイヴも店はやりません」
「な、なんでですか真さん」
「だって彩葉が入院してるから店で一緒にクリスマス過ごせないから」
「お店を休みにさせて病院に行ってくる……ってわけね、真さん」
「そのとおり」
「じゃあ、奏多。アンタ予定、ないわね?」
 悪びれもなく、むしろ当たり前だろとでも言うように真をしり目に、千弦はさきほどの奏多以上に得意げな笑みを浮かべてじりじりと少しずつ奏多に詰め寄っていった。


「私ったら、何やってるんだろう」
 控室にある着替え用の個室の中、ハンガーにかかっている夕麗中の制服を見つめながら、つばめは先ほどの出来事に後悔をしていた。
 あんな姿を妃さんに見られるなんて……きっと変な子だって思われた。
 いや……。
「もう、変な子だって思われてるんだった……!」
 つばめは一度、この喫茶店Violaに来てから奏多本人に向かって「そ、奏多さんもそっち系……の人ですか?」と聞いてしまったことがあったのだ。まぁ、この話は本編で語ろうと思うので今は置いておいていいだろう。
 このまま控室に引っ込んでいるわけにもいかないため、つばめはリボンタイをはずし、ワイシャツに手をかけていった。今はとりあえず、早く着替えてしまおう。それで、頑張って一度聞いてみようじゃない! と意気込んだ。
そうと決まればさっさと着替えてしまわなければ。ゆっくりと着替えていたペースを上げてセーラー服に袖をとおしていく。スカートを穿き終え、最後にリボンを結び、バイト中にくくっていた髪の毛をちゃんとセットし直せば完了。ハンガーにかけたバイト用の制服をロッカーにしまい、教科書が入っている鞄を手にし、つばめは控室を出た。