元勇者
……そんな勇者に、さらに追い討ちをかけるイベントの発生が続出した。元勇者や元仲間たちに対する訴訟だ……。
死んだモンスターの遺族や、後遺症が残るダメージを負ったモンスターたちが、
「大事な家族を虐殺された!!!」
「人生を台無しにされた!!!」
と、狂ったように泣き叫び、謝罪と賠償を要求してきたのだ……。モンスター権団体やモンスター愛護団体が、その死に損ないのモンスターたちを支援していた。まったくおかしな連中だよ。
それから、世界各地の人々が、
「勝手に家に入ってきて、勝手に家の棚を開け、勝手にそこから物を盗んでいった!!!」
と、元勇者や元仲間たちに対して、謝罪と賠償を要求してきた……。
幸いなことに、時効や証拠不十分のため、刑事裁判は免れることができた。しかし、不幸なことに民事裁判では、元勇者や一部の元仲間たちは、脳に偏りがある厄介な裁判官に裁かれてしまい、賠償金を支払わなければならない羽目に陥った。一番幸せになったのは、訴えた側の弁護士だろうな。
さらに不幸は続く。元勇者の妻である元ヒロインが、元勇者を見捨て、子供を連れて出ていったのだ……。
度重なる不幸に、元勇者は悲しみに暮れるしかなかった……。やがて、元勇者は、この過酷な悲しみから逃れるために、死んで楽になることを決心した。元勇者は、かつての冒険で身に着けていた装備を着けると、少し離れた場所にある海の断崖へと向かった。
荒波が打ちつける断崖に着くと、家で書いてきた遺書を地面に置き、自慢の剣をそこに突き刺した。
そして、元勇者は断崖から海へと飛び降りた……。そのときの夕焼けは、とても美しかった。目に焼きついたよ。
――後日、元勇者の死体は、死体漁りに荒らされた状態で見つかった……。元勇者の遺書や剣は、盗まれる前に、私が素早く回収しておいた。本来、受け取るべきは、元ヒロインや子供なのだろうが、残念なことに、家を出てからそうたたないうちに、2人とも野盗に殺されてしまっていた……。
元勇者や元ヒロインや子供の死体の引き取り手はおらず、そのまま共同墓地に仲良く放り捨てられた……。もちろん、ゾンビ系のモンスターとして復活しないよう、後処理はしっかりと施されたさ。これなら、国王も人々も安心して暮らせる。
……え? なんで私が、元勇者のことをここまで詳しく知っているかって? なぜなら、私が元勇者の仲間たちの1人で、元勇者から愚痴を聞いたり、自殺するのを見届けたりしてやったからさ!
あの冒険の後、私は国の軍事コンサルタントとなり、その後は天下りで、武器屋の顧問になったんだ。うまく立ち回れたことは自慢できるね。ついでに言っておくと、元勇者の遺書と剣は、物好きなマニアに売っちゃったから、もう持ってないよ。例のウザイ奴らに払う金を用意しなくちゃいけないからさ。
さあ、これで私のお話は終わりだよ。君たちもうまく立ち回って生きよう。一番難しい冒険は、この世で生き抜くことなんだから。