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元勇者

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 みんなもよく知っているように、勇者であるその男と、個性豊かな仲間たちは、世界征服を目指していた大魔王を倒した。この世界に平和をもたらしたわけだ。
 ただ私が話すのは、それからの物語なんだ。実は大魔王は生きていたとかいうオチは無いので、その点は安心してくれ。



 大魔王を倒した勇者(以下、元勇者)と仲間たち(以下、元仲間たち)は、帰り道に寄った酒場で打ち上げ会をやった後、それぞれ故郷へ帰っていった。故郷に帰ったらみんな、当然大歓迎された。

 勇者といわゆるメインヒロイン(以下、元ヒロイン)の故郷は同じ地だ。2人は冒険中からデキていたこともあって、故郷の過疎な農村に帰ると、すぐに結婚式をあげた。その結婚式は、田舎者らしい見栄っぱりな式で、費用がかなりかかったらしい。まあ、冒険中に殺したモンスターから奪った金や、新たな仕事による収入で、お金には困らなかったそうだ。
 元勇者の新たな仕事とは、冒険についての講演活動だった。「その気持ち悪いモンスターはこう倒した」とか「そこで宝箱を見つけた」といった、冒険の自慢話を喋るだけという、なんとも気楽な仕事だ! ……まあ、私も人の事はあまり言えないけど。
 そんなわけで、元勇者は、元ヒロインとともにリッチな生活を満喫することができた。まさに勝ち組だ。冒険をする前は、負け組の貧農一族だったみたいだけどな。

 さてさて、そんなある日のこと、元勇者の御屋敷に、シンプル過ぎる身なりの貧乏な人々がやって来た。その人々は、最近できた増税によりさらに苦しんでいて、
「国王に税金を減らしてくれと伝えてもらえませんか?」
と、元勇者に頼みこんだ。
 元勇者も、増税には少し苦しんでいたから、固定資産税と所得税を減らしてほしいと思っていた。そこでこの機会に、国王に減税を頼みに行くことにしたわけだ。

 国王は、やって来た元勇者を温かく迎えてくれた。なにせ元勇者は、この国の英雄だからね。まあ、国王のほうは、「自分は英雄とこれだけ親しいのだぞ」という感じのパフォーマンスをしたかったんだろう。
 ところが、元勇者が減税を頼んだ途端、温厚な笑顔だった国王の顔は、たちまち険しい顔になった……。そのときの国王の顔は、大魔王が自国へ侵略を始めたという報告を聞いたときの顔と同じだったらしい……。支配者である国王にとっては、国外の敵も国内の敵も同じというわけだね。
 それからすぐ、国王が元勇者を追い出したのは言うまでもない。
「オレはこの世界を救ったんだぞ!!!」
元勇者は、必死にそう叫んだけど、国王は聞く耳を持たなかった。

 元勇者がこの陳情で手に入れたモノといえば、国王からの反感と、人々からの不評だった。貧困層の人々は、「期待外れだった」と肩をすくめた。また、中間層の人々は、国王に対して不敬だと糾弾し、富裕層の人々は、自分たちに有害な存在だと恐れた……。

 この一件が原因で、元勇者に講演の仕事が全然来なくなった……。講演を依頼した側まで非難されちゃうからね。しかし、元勇者は、元ヒロインとの間に子供をもうけてたから、収入を途絶えさせるわけにはいかなかった。冒険中に貯めた金だけでは暮らせず、高く売れる手持ちのアイテムも残り少ない。
 そこで元勇者は、仕事探しを始めたわけだが、うまくいかない。仕事に繋がる資格も免許も持っていないし、『勇者』は職歴にはならないからね。冒険中にアイテムをよく買った店も受けたが、店まで不評になってはたまらないと雇ってもらえなかった。
 どこにも雇ってもらえず、収入が途絶え、元勇者一家の暮らしは落ちぶれた。そのため、元勇者はすさみ、飲んだくれたり、元ヒロインや子供にダメージを与える日々を送るのだった……。

作品名:元勇者 作家名:やまさん