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ありふれた連絡網

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 帰り道、夕焼けに染まる町並みを一望しながら、隣に歩く西田(沢木は部活で遅くなるらしいから置いてきた)の機嫌がいつもに増して上機嫌だったのに反比例して、俺の機嫌はダダ下がりした。
 いつものように分かれ道で「またな」と簡単に挨拶を済ませて、帰路を急ぐ。中学生の頃までは一軒家に住んでいた俺の家は、高校に入ってから二人住まいのマンションへと姿を変えている。
 慣れた手つきでポストを確認する。何もない。
 2階なのでエレベーターを使うまでもない。階段を使い、左端から三番目の203号室へ入る。まだ弟は帰ってきていなかった。部活で忙しいのかもしれない。詳しくは知らないが、弟はサッカー部に所属していた。
 結局、奴らの提案を飲むハメになってしまった。
俺はその日の晩、やさぐれて一人缶ジュース(炭酸のきついグレープ味)を自室で煽った。
 ちょっと喉が焼けそうになった、後味に甘ったるさが残る。花粉症でくしゃみをしすぎたせいで、ホントはジュースの味も何もかも訳がわからなくなっていた。本当は、炭酸はあまり好きじゃない。ではなぜ飲んだくれていたのかというと、単に気持ちをすっきりさせたかったからから。そんだけ。
 勉強机の上に置かれた現状をチラ見して、目を背ける。
 机の上には、仕事中毒な両親からの、年に数度あるかないかの手紙が置かれていた。弟にはまだ見せていない。重要な事柄が綴られているに違いなかったそれを容易に開けることは、さすがに躊躇われた。
 本日頂戴してきた進路希望調査票を見て、何度目かわからないため息を吐く。
「っんとに、どうすりゃいいんだか」
 両親は、自分を生きることに精一杯で、そんな姿が頼もしくもあり。小さな頃からさみしく感じなかったと言えば嘘になる。だいぶ放置されて育ったにも関わらず、俺と弟はすくすくと、真っ直ぐに育ってきたほうだと思う。育てかたがどうこう、というより、今まで出会ってきた人との付き合いが良かったんだろう。認めたくはないけど。
 レンラクモウ、と手書きで記されている薄っぺらい紙一枚をなにげなく取り出してみる。こんなぺらい紙一枚で、何が変わるというのか。
 どうせ、自分のことは、自分で引き受けて、辛くても苦しくてもこなしていくしかないのに、何の助けになるというのだろう。
 別に、勉強するのは嫌いじゃない。今の生活に不満もない。強いて言えばもっとたくさん弓道がしたいと思う。それくらい。
 それなのに、息が切れそうになる時がある。今の生活に不満がなさすぎて、未来へ進みたくないな、なんて思ってしまう瞬間が、稀にやってくるようになったのだ。未だこうしてあいつ等とバカみたいなことをダラダラと、何も特別目立ったことのない日常の中で続けていきたかった。終わりたくないって気持ち、なんて陳腐なんだろう。教科書や流行りの歌の中でだけ、それが主張されている気がしていたのに。まさか、こんな気持ちを他の誰でもない自分が抱くことになろうとは。
 炭酸でも飲まなければやってらんねぇよ。
 そして、何処かでこのぺらい紙一枚に期待してしまっている自分がいる。たぶん、面倒な事がこれからたくさん付いてくる気がするけど。それを差し引いても、これは幸せなことなんだろうと、漠然とそう思う。


作品名:ありふれた連絡網 作家名:しゅのん