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千歳の魔導事務所

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「いたんなら返事してよー。途中で気がつかなかったら所長に連絡しちゃうところだったじゃん。で、所長はどこいったの? 鍵も開けっ放しでさ」

「千歳はしばらく帰ってこないぜ」

 レオは面倒くさそうに私の膝の上であぐらをかいて私に頭を撫でられながら答えた。

「野暮用でな。ちょっと遠い知り合いのところに行ってる。一週間くらいで帰ってくるってよ」

「えー聞いてないさー。せっかく早く調査してきたのにさ。それにもしその間になにかあったらどうするのさー」

 誠に遺憾である。それなら事前に言っておいてほしかった。

「知らねぇさー。まぁそんなわけだから、千歳が帰ってくるまでは待機って事で。ああそれと千歳から預かってるものがある」

 レオはそういうと所長の机まで軽快に跳んで行き引き出しを開けた。私も気になって近づく。

「なにこれ……鍵と、腕輪?」

 引き出しの中にあったのは変哲も無いシリンダー錠の鍵。それと銀の小さなプレートを革紐でちぎれないようにいくつもつなげたような、腕輪というにはどちらかといえば手の込んだミサンガのような物だった。

「鍵はこの事務所の鍵だ。丁度いいから持っとけって。あとこれ、ほら、自分で取れ。そう、これ、これは寝るときと風呂のとき意外はなるべく着けとけって千歳が」

 少々派手だがまぁこれくらいなら女子として許容範囲だろう。

 手にとって良く見てみると銀のプレート一つ一つになにか細かく模様が刻まれているようだった。細微にわたり精巧にできていて少しだけ重い。

「ふうん。いいけどさ、なにこれ? お守りみたいなものなの?」

 レオに聞くとレオはあきれたように腕を組んだ。

「お守り……じゃないんだよなぁ、むしろ全く逆のものだそれは」

 お守りの……逆……? つまりなんだ、呪いのアイテム? 装備すると外せないけどステータス大幅アップ! 的なアレ?

 少し嫌な予感がした。まぁあの所長が単なるアクセサリーをくれるとは到底思えないわけであって。

「簡単にいうとだな。それを着けると魔力が無くなる」

 呪いのアイテムだった。

「なんでそんな物を……しかも着けろって……」

「まぁ聞け。千歳が言うには今回の被害はおそらく近いうちにこの舞樫市全域に及ぶかも知れないらしい。それに魔力奪われた後でなにされるかまだわかったもんじゃないしな。だから奪われる前に抑えてしまえ、つまりは偽装工作、ということだ」

「……諸刃だわー」

 それは本当に大丈夫なのだろうか。実に『気分』の悪くなりそうなアイテムじゃないか。

「いやいや割と上策だと思うぞ? それはあくまで魔力を体内に抑えるものだから心身には極力影響の出ないようになっているし、余分の魔力がある程度貯められるような機能付だ。似たようなものは割とあるが、この絶妙なバランス調整は流石に千歳だよ」

「あ、これ所長が作ったの?」

「ま、理論はな」

 レオは所長の机から飛び降りるとまたソファに向かって飛び乗った。

「そんなわけでしばらくは孤都もここに来ないだろ? だからそれ着ける前に充電してくれ充電。俺も色々動くつもりだから多めに頼みたいんだが」

 今やもう自然に会話したりしてしまっているが、レオは猫の人形で、しかしそれがこんな風に動いたり話したりしているのは魔法に依るもので、そしてその原動力となっているのは私の魔力、らしい。

 普通、魔力の質は人によって千差万別であり、足りないからといって他人に簡単に分け与えられるものではない。

 輸血の際の血液型のように、型が違うタイプの魔力だとむしろ毒になるらしい。そして血液型のように数種類の型に当てはまるようなほど単純ではなく、現在の人類で換算して一人につき世界で十人、適合する魔力があれば良いほうだという。

 しかし私の魔力というのは少し特殊らしく、私の持つこの魔力の特殊性を見出した所長が、私を事務所に誘った理由もそこにある。死ぬかと思った。

 とにかくそんな私の魔力がレオの原動力となるらしく、レオはたまに充電と称して私に魔力をせびるのだった。

 ソファに座り、レオを膝の上に乗せる。ちなみに魔力の分け方は一瞬でできるような効率の良いやり方もあるらしいのだが、私はまだコントロールができないのでこうして体を寄せることで少しずつ分ける方法しかなかったのだった。

 二人して(一人と一匹? 一体?)気の抜けた表情だったと思う。レオに関しては半分寝ているかのようだった。

「ふう……ということはあれだねー。私しばらくやることないのかなー」

「一応範囲調査することになってんだろー。また一週間くらい後に見てこいよ、きっと被害拡大してっから」

 だよねぇ……だったら今日の私の行動は本当にただ健康的に運動しただけじゃないの……。

「はぁ……なんだか余計に疲れた気がするわ……。あ、そうだレオ、ちょっと思ったんだけどさ」

 不意に思いついた事を口に出すことにした。レオは聞いているんだかないんだか、猫のように丸くなっていて反応が薄いが構わず続ける。

「今回魔力が無くなった人いるじゃん? その人にこんな感じに私の魔力分けてあげたらどうなるのかな。」

 一呼吸置いてから薄目を開け、これまた面倒くさそうにレオは答える。

「やーめとけ。まだ魔力無くした他になにされてるかわかんねぇんだから。でもま、それは別としてそいつの魔力云々に関わらず、お前の魔力分けたら大抵の人間は精神安定剤と多少の体力回復くらいにはなるだろうよ。でも今回はとりあえず軽率な事は控えることだな」

 そうですか。

 じゃあ本当に私のできることは少なそうだ。

 遠くの蝉の声と空調の音だけが聞こえる閉鎖された空間。心地よい疲労感と室温により瞼が重くなる。さぁ明日はなにをしようか、したいことはあるか、すべきことはあるか。まどろむ意識で何か考えようとしたが、脳が、いやそれよりは性格というか心というか、私というもの自身が面倒くさがって考えることを拒否しているようだった。

 よし、あきらめた。

「ん……レオ、ちょっと寝るね。一時間くらいしたら起こして……」

「はあ? ふざけんな。自分で起きろよ」

 ……この毛玉モドキめ。私は仕方なく携帯のアラームを一時間…………と、三十分経ったら鳴るように設定し、欲望に身を委ねる事にした。



 結局二時間後に起きることになる私だったが、その体にはブランケットがかかっていて、そしてそこにレオの姿は無かったのだった。

 ……このツンデレめ。








 
「ぐすっ、ふっ、はぁ……ううう。くぅ、あー! だめだ思い出しちゃう! ちょっともうなんなのアレ! もうおかわりしてくる!」

 と、涙目ながらに席を立ってカウンターに向かうミキを見て私は優雅にアイスココアを口に含む。

 事務所でレオから所長の不在を聞いてから二日後。私は学校の友達であるミキと市外の、この辺りではだいぶ栄えてる街に遊びに来ていた。
作品名:千歳の魔導事務所 作家名:こでみや