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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 霧沢が朝起きてみると、比叡山から吹き下ろしてきたのだろう、白い物が舞っていた。
 しかし、日中となり少し気温が上がったのだろう、それは霙(みぞれ)となり、そして冬の冷たい雨へと変わった。
 そんな雨がしとしとと降る中、光樹と沙那の葬儀が粛々と執り行われた。

 会場内には、白い花々の上に、光樹と沙那の二人の遺影が並べて飾られてある。そして、お経がまるで無機質に淡々と会場内に響いている。
 霧沢は簡易に並べられた硬い椅子に座り、悲しみが極度の壁を越えてしまったのか、まるで放心したかのように葬儀の進行を無感覚に眺めている。そして横ではルリが俯いたまま、握り締めた数珠の上に涙を落としている。

 弔問者の焼香も順次に終わり、読経は南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と繰り返され閉じられた。
 こうして葬儀は時間通りに進み、厳粛な中で終了した。
 そして喪主からの挨拶となった。三十歳くらいの男性が現れ出て来た。
 その青年が光樹と沙那の一人息子の滝川大輝(たきがわたいき)だと思い巡らすまでもなく、霧沢は容易にそう察知した。見るからに二人の面影を引き継いだ好青年。
 霧沢は以前ルリから聞かされていた。「沙那には、愛莉より一つ年上の立派な息子さんがいてね、大手の銀行に勤めているのよ」と。その大輝に、こんな場面で会うのは残念なことだったが、霧沢は初めて顔を見た。

「本日は冷たい雨が降り、足下が悪く、また大変お寒い中を、皆さま御多忙のことだと思いますが、故人・父の滝川光樹、そして母・沙那の葬儀にご参列賜りまして、まことにありがとうございました、お礼申し上げます」
 大輝は悲しみをいかにも堪え、しっかりとした口調で挨拶を始める。そして文言は続き、最後に、「画廊を営んでいました父と母、事ここに至るまで皆さまからの暖かい御厚情、御支援を頂いて参りました。私は現在勤め人でありますが、今後は、その画廊を引き継いでいきたいと思っております」と、自分の身の振り方について弔問者に伝えた。
 霧沢はこれを聞いて、正直ほっとした。なぜなら、光樹はそれを最も望んでいたことだろうし、それが一番の親孝行ではないかと思うのだった。

 大輝の挨拶は終わり、出棺となった。霧沢とルリは二人を見送るため、会場の外へと出た。その時はもうすっかり冷たい雨は止んでいた。
 最後にもう一度、霧沢とルリは走り去って行く霊柩車に手を合わせた。こうして葬儀のすべてが終わった。
「さっ、ルリ、帰って暖まろうか」
 霧沢は沈み込んでいるルリが心配で、家でまずはゆっくりさせてやりたいと思った。ルリはまだ悲しみを引きずっているのか、しばらく黙っている。そしてその後、それを断ち切るかのようにルリが声を掛けてくる。
「ねえあなた、ここは賀茂川の近くでしょ、ちょっと川べりを歩いてみない」

 ルリからのこんな突然の提案に、霧沢は「えっ、そんなの寒くって、風邪を引いてしまうよ、それに喪服を着たままじゃ、ちょっとね」と反対した。
「構わないわ、気晴らしをしたいだけなの」
 ルリが一歩も譲らない様子だ。霧沢はそんなルリの気持ちを思い、「じゃあ、風邪を引かないように気を付けて、少しだけ歩いてみるか」と足を踏み出した。
 こうして、二人は冬の賀茂川べりの道へと下りて行った。