紺青の縁 (こんじょうのえにし)
ルリはじっと黙り込んだまま、霧沢のこの決断を聞いた。そしてその言葉を噛み締めるように深く頷き、「アクちゃん、ありがとう」と小さな声で囁き返してきた。
その後ルリからはそれ以上の言葉は発せられてこない。だが、霧沢の手に力が込められてくる。そして、いつまでも続く沈黙の代わりに、春爛漫の光り輝く陽光の下であるにも関わらず、ルリの目から大粒の涙がハラハラと落ちる。そんな様子を見て、霧沢は口を開く。
「ルリ、俺たちの未来は、これで変わったかもな。それとも初めからこうなるように運命づけされていたのかも知れないなあ。だからその流れに逆らわず、この新しい扉を、愛莉ちゃんと一緒に三人で開けてみよう、……、それで良いよね」
霧沢はこう囁いて、ルリをそっと抱き締めた。ルリは「うん、愛莉ちゃんと一緒にね」と小さく繰り返す。
「ルリ、もう泣かなくていいよ。この道は、今、二人で決めたのだから」
霧沢はそう言って、ルリの涙を拭いてやる。その一方で、ベンチの上ですやすやと眠っていた愛莉はいつの間にか目を醒ましている。機嫌が良くなったのか、霧沢とルリに柔らかく微笑んでくれる。
「さっ愛莉ちゃん、もう一度、真っ赤なチューリップを観に行きましょ」
ルリはベンチから愛莉を抱きかかえた。そして頬擦りをしながら花園へと歩き進んでいった。霧沢はそんな二人の後ろ姿を目で追い掛ける。
花園にいる二人、いつの間にかルリと愛莉が真っ赤に染められ、燦々(さんさん)と輝いて見える。そんな二人を眺めながら、天国へと旅立ってしまった宙蔵と洋子に、霧沢は報告をするのだった。
「宙さんと洋子さん、ルリと俺があなたたちの代わりになって、愛莉ちゃんを立派に育ててみせるからな、……、これで安心してくれ」
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊