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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 霧沢は今回の〈洋子のクラブ内首吊り自殺〉、それは吃驚仰天(きっきょうぎょうてん)だった。
 だがそれ以外のことでも驚いた。桜子と光樹の事情聴取結果を警察の担当官からこっそりと聞き、絶句した。それは二人のアリバイのことではない。その男女の関係のことだった。

「伊豆の温泉に二人で出掛けるなんて、やっぱりそこまで関係は進んでいたのか」と、霧沢は開いた口が塞がらなかった。そして思い出す。
 あれは前年の夏から秋への季節の変わり目の九月のことだった。宙蔵の四十九日はすでに終わっていた。霧沢は宙蔵の密室での事故死がなんとなく合点がいかず、桜子を訪ねてみた。
 その時、奥座敷の違い棚の奥に、一枚の男と女の情交の絵が飾られてあった。その絵の左下には〔桜龍の契り〕とその画題名が書き込まれていた。
 そして桜子は「実はね、光樹が描いてくれたの」と言っていた。その後、霧沢の帰り際に小さく呟いた。
「私の人生だもの、好きにするわ。支えてくれそうだし」と。

 霧沢はそのことを今でもしっかりと憶えている。したがって、当時その言葉で、桜子と光樹との間には男女の関係があると一旦は思った。だが、後でもう一度振り返ってみると、あの〔桜龍の契り〕の絵のタッチは光樹の写実風のタッチではなかった。
 そしてまた学生時代の頃の光樹を思い出せば、男としては割に純で気の良いヤツだった。霧沢は学生時代の光樹に良い印象を持っていた。
 しかし今回、警察の担当官は決して不倫旅行とは言わなかったが、それを暗に匂わせた。そんな伊豆旅行の二人のアリバイの報告を受け、「ああ、やっぱりそうだったのかなあ」とも思えてきた。

 そして「同じ美術サークルにいた友達、宙蔵が亡くなり、一年も経っていない内に、しかもその女房と温泉旅行に行くなんて、光樹のヤツ、こんな巫山戯たことをよくやるもんだよ。桜子と道ならぬ恋に溺れてしまっていたのか、見損なったヤツだ」と不愉快にもなった。
 しかし、「光樹が……、なんでだろう?」と霧沢はやっぱり疑問で、どう考えても不可解な話しだと思えるのだった。

 それは滝川光樹の妻が沙那だからだ。あの律儀でしっかり者の沙那が光樹には付いている。
 もし光樹が桜子とそんな不道徳な女性関係を持っていたとしたら、沙那は決して光樹を許さないだろう。霧沢はそんなことを思いながら、大学三回生の出来事がぼんやりと思い出されてくる。