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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 晩秋の月が冴え渡った夜に、霧沢は京都駅の新幹線プラットホームでルリにプロポーズをした。そして霧沢は翌年の六月に結婚することをルリに約束した。

 年は明け、霧沢は三十一歳となり、また春が巡りきた。
 祇園円山公園の七千本の桜も、桜花爛漫(おうからんまん)とこの世の春を謳歌するがごとく咲き誇っている。その中でも祇園の夜桜と称される巨木の枝垂れ桜、夜ともなればライトアップされる。
 それはいかにもあだっぽくて悩ましい。そんな妖艶に咲き乱れた姿を一目見ようと、列をなして人たちはそれを愛でる。
 霧沢もその年はルリと一緒にその夜桜を観に出掛けた。そしてその後、春の夜風に誘われて、二人は立ち並ぶ屋台の間をくぐり抜け、祇園石段下から祇園白川まで歩いた。

 ルリと仲良く腕を組み、ゆるりとした歩調で辰巳(たつみ)神社へと辿り着く。そこでは舞妓三人が詣(まい)っていた。多分、芸事の上達を願ってのことだろう。その周りでは観光客たちの人だかりがし、盛んにフラッシュが焚かれている。
「アクちゃん、舞妓さんも大変だね」
 そんなことをルリが言う。「ああ、そうだね」と霧沢は返し、ルリを群衆から守るように自分の方へと引き寄せた。ルリは為されるままに、霧沢にその身をぴたりと寄せる。
 そして二人は桜のトンネルの石畳を寄り添い合って、ゆっくりと歩いて行く。
 お茶屋から漏れ聞こえてくる三味(しゃみ)の音に、白川に覆い被さる宵桜は舞うがごとくその艶やかな姿を川面に映している。

「私たち、きっと幸せになれるわよね」
 ルリがぽつりと訊いた。「うん、もちろんだよ。絶対に幸せにしてみせるから」と霧沢は力強く答える。
「ありがとう、だけどアクちゃん、今も幸せだよ」
 そんな二人にヒラヒラと桜の花びらが舞い落ちてくる。ルリは手を伸ばし、手の平にそれを素早く掴み取る。そしてその手の平をぎゅっと閉じる。
 霧沢は花びら一枚が包み込まれたルリの手を、上からそっと握り締める。そしてルリの身体を優しく引き寄せる。
 ルリはそれを拒まず、花に酔い、桜色に染まった頬を霧沢の肩に預ける。

 二人はもうすぐ結婚する。その華燭の典の二ヶ月前、二人はこんな平穏で幸福な日々を送っていた。
 そんな桜花爛漫の満ち足りた春の宵から二週間が経った。それは四月中旬も過ぎた頃のことだった。
 またとてつもない不幸が起こってしまった。

 ママ洋子がクラブ・ブルームーン内で首吊り自殺をしてしまったのだ。