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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 それは霧沢亜久斗が宙蔵のマンションを訪ねた後、十日ほどが経過し、六月も終わろうとしている頃のことだった。
 霧沢は午前の仕事を終え、外で昼食を取り、疾(と)く疾(と)くとオフィスへと戻ってきた。そして自分の席で休憩を取っていた。
 濃いめのコーヒーを味わいながら、ざっと大まかに新聞に目を通していた。
 こんな時間の費やし方ではあるが、それでも霧沢にとっては業務の合間にあるくつろぎの一時。朝の通勤時に読み切れなかった記事、特に地方版をパラパラと拾い読みしていた。そんな時に、霧沢は突然喫驚(きっきょう)の声を上げる。

「えっ、何だよ、これっ!」
 驚きのあまりその後の言葉が続いてこない。
 そこには、京都の老舗料亭・京藍の主人、花木宙蔵がアトリエとして使っていたマンションで事故死した、とそんな記事が載っていたのだ。
 見出しは『花木宙蔵の密室・消化器二酸化炭素・中毒死』とあった。そして記事の内容はおよそ次のようなものだった。

 花木宙蔵はマンションの一室で二酸化炭素により急性中毒死をした。
 死亡推定時刻は深夜の午前二時から三時頃。
 原因は寝煙草で起こったボヤを消そうとし、二酸化炭素消化器を使用した。
 そのガスが室内に充満し、それにより死亡。

 第一発見者は京藍の女将でもある妻、花木桜子とマンションの管理人。
 桜子は翌日の朝八時にマンションを訪ねた。
 その時、部屋に残存していた異臭が漏れ出ていた。
 桜子はこれによりマンション内の異常に気付いた。

 その後、管理人とともに、ドアチェーンが掛けられた玄関ドアを打ち破り、室内へと入った。
 そして寝室で死亡している故人を発見した。
 そこには使用済みの空の消化器が二本あった。

 捜査当局は、この花木宙蔵の死亡はドアチェーンが掛けられた密室内で起こったこと。
 また花木宙蔵の関係者たちには午前二時から三時の間のアリバイがあり、それが成立したこと。
 これらをもって、二酸化炭素による急性中毒死、つまり事故死だと断定した。

 記事はこんな内容で簡潔に書かれてあった。