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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 それからずっと真由美は俯いたままだったが、五分ほどの時間の経過後、やっと気を取り戻す。
「そんな優菜の父を殺した桜子と龍二が憎かった。だけど優菜を育てていくために、言われるままに龍二と結婚してしまったんよ、それからずっと龍二とは仮面夫婦を演じてきたの。だけど優菜は大きくなったし、三年前に思い切って離婚したの……。だけどね、どうしてもこんな惨めな過去のすべてを消してしまいたくなってしまったのよ、そしてそれを、沙那さんが……、沙那さんが、止めてくれはったの」
 真由美はこうしみじみと語り、後は一気に泣き崩れるのだった。霧沢はそんな真由美の背中をしばらく擦ってやる。それで真由美は落ち着いたのか、今度は声のトーンを少し上げて話す。

「それで沙那さんなんやけど、夫の光樹さんが少なからずともこんないろんな出来事に関わってきやはったでしょ。それに加えて、桜子の死後、多分龍二が借金の返済を光樹さんに強く迫るようになったんやろね、だから責任を感じはったんよ。愛莉ちゃんや優菜に、それと遼太君や大輝君にね、私たちのこんな過去が子供たちの負担にならないようにと、ホント律儀に。沙那さんと光樹さん、心優しい人たちでしょ、きっと二人で相談しやはったんやわ。……、最後に自動車事故の大芝居を打って、借金返済のために自ら命を絶ってしまわはって。だけど、この大芝居と言うところは、あくまでも私の勝手な妄想よ。ここの真実だけは……、藪の中なの」

 こんな真由美の激白に、霧沢は「やっぱりそういうことだったのか」と改めて得心した。
 そして独り言で、「だけど、なぜルリは、これらのことを、知り過ぎない方が良いこともあるのよと、俺に言ったんだろうなあ?」と己の疑問をついつい呟いてしまった。
 真由美はそれにしっかりと耳を傾けていたのか、小さな声で霧沢を諭してくる。

「ルリ姉さんはね、きっと心配してはったんよ、沙那さんが自動車事故でせっかく消してくれはった親たちの過去、それを霧沢さんが変な思い込みをして、掘り返すんじゃないかってね。そんなことしたって、今さら子供たちのために何の役にも立たないわ。だから、すべては沙那さんと光輝さんの自動車事故で終わったのよ。……、霧沢さんも、さっさとそんな過去から抜け出して、そうよ、早くルリ姉さんと一緒に絵でも描いて上げて」
 霧沢はこの真由美の一種解説めいた話しを聞いてなるほどと思った。確かにこの期に及んで過去をほじくり返してみても、藪を突っついて蛇が出てくるようなものだ。

 そしてさらにわかった。ルリも何か悪いことに関わってきたのかと疑ったこともあったが、ルリにとってもどうすることもできず、今までただ宿命としてすべてを受け入れざるを得なかったのだ。そして、ルリは事態が流れるままに任せてきただけだったのだと。

 こうして霧沢は、真由美が語ってくれた話しで、四つの出来事の全容が把握できたような気がしてきた。
 あと桜子が具体的にどのようにして殺害されたかの疑問は残っていたが、霧沢はこれでほぼ胸の支(つか)えが取れたのだった。