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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 遼太の小説・〈ノートパソコンの行方・新幹線こだま刺殺事件〉は短編で読み易く、その謎解きをした筋書きはこのようなものだった。

 しかし、霧沢は腰を抜かすほど驚いた。それはまさに霧沢が今推理を進めている事件、ただ一点だけを除けば、まったく酷似していた。
 その一点とは、現実の桜子の死亡推定時刻が三河安城駅を過ぎてからとなっていたこと。
 それを考慮しなければ、要はa社研究員Aを桜子、そしてb社研究員Bを沙那と読み替えれば、桜子の〈老舗料亭・女将・新幹線こだま内塩化カリウム注射殺人事件〉とまったく一緒なのだ。

 そして霧沢は、この筋書きにより、東京からの下り・こだま六五七号から、京都からの上り・こだま六六二号へと一旦移り、また元の下り・こだま六五七号へと戻ることは可能だったのかと一人感心する。

 そんな時に、外から帰ってきたのか遼太がリビングへと入ってきた。
「なあ遼太、これ結構面白いストーリーだよなあ。それで、ちょっと教えてくれないか、この小説、もうどこかへ投稿でもしたのか?」
 霧沢は話しが重くならないように軽く訊いてみた。突然問われた遼太は少し怪訝な表情となったが、「ああ、それね、元は学生の頃の作品だよ。当時サークル内では人気があってね、友達によく貸し出してたんだけどね。だけど残念ながら未完成なんだよなあ、殺人が刺殺じゃね、絶対に返り血を浴びるんだよなあ、そこが越えられなくってね」と軽く返してくる。

「それじゃ没だな、没にしときなさい」
 霧沢は少し強い口調でそう言い切った。
「ああ、もうそのようにしているよ、だけど、周山街道で亡くなってしまった大輝兄さんのお母さんが、結構気に入ってくれてたんだけどね」
 霧沢はこれを聞いて耳を疑った。
「ということは、遼太、大輝君のお母さんは、この小説を読んだのか?」と思わず聞き返した。

「そうだよ、あれはもう二年ほど前のことだったかなあ、お父さんが出張している時に遊びにこられててね。その時俺のいろいろな小説を紹介したら、その中でもこれが一番面白そうねと仰って、一週間ほど貸して上げたのだけど」
「ふうん、そうなのか」としか霧沢には答えられない。だが霧沢は、もう一つだけ確認をしておきたいことがある。

「なあ遼太、ところで、愛莉もお母さんもこの小説を読んだのか?」
 遼太は今さら何をそんな質問をするのかという風な顔をしている。
「お姉さんに、お母さんて? お父さん、長年一緒に暮らしていて、何にもわかってないんだね。お姉さんの興味は大輝兄さんだけだよ。それにお母さんの興味は絵、絵だけだよ、恋愛小説なら、ひょっとしたら読むかも知れないけどね。これはミステリーだぜ、そんなの二人とも読むわけないじゃん」

 霧沢は遼太のこんな言葉を聞いて、「そうか」と短く答え、ほっとした気持ちで一杯になったのだった。