よいこ
今、彼女の髪は暗い。紫、群青、黒。何とも言えない澄んだ色。暗い色。ところどころに散りばめられた黄金色は、さもじっとしていますよという顔をしている。彼らは東から西へ毎夜さすらう。わたしの視点からならば。
テトラポッドに立った彼女は、髪を風と戯れさせた。わたしは風に嫉妬する。声は極力おだやかに、風に音を乗せて。
「こんばんは。宵子。来たよ」
彼女はこちらを向いた。はにかんだ顔のあどけなさに、ほんの一瞬見下しそうになった。
「こんばんは。ありがとう」
彼女は幼さを忘れないおとな。いつだったか、そう言っていた。
「今夜は、なんの話をしようね」
「最後だからね」
「そうだね。……その制服、とてもよく似合っている」
「宵子はどうして、セーラー服なの?」
はためくスカート。
「わたしは良い子だからね」
「意味わかんない」
「わたしもよ」
もうすぐ、宵子の髪は薄紫になって、桜色になって、薄緑になって、やがては真っ青に染まるのだ。