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大雨の翌朝は晴れていた

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大雨の翌朝は晴れていた




 スローモーションの映像のように音もなく移動して行くのは、ボートではなく、筏だ。彼は川の上に浮かんでいる筏の上に立っていた。川は古びた木造の家々の間を縫うようにゆったりと流れていて、川幅は十メートル程度だ。羽柴哲志は恐怖していた。なぜならば、微かに濁っている水の中には夥しい遺体が、浮きあがるでもなく、沈み込むでもなく、水深一メートル前後の辺りに漂っている。水の中なので本当はもっと深いところを漂っているのかも知れない。老若男女様々な死体が背を見せていたり、顔を水面に向けていたりする。その表情には喜怒哀楽のようなものが浮かび、千差万別である。凄惨だった。羽柴は筏の上から、悪夢から逃げ出したいのだが、川岸までは数メートルの距離がある。彼は異臭にも悩まされていた。
 目覚めたあとも不快感は消え去らなかった。何時だろうかと考えている。その室内には時計があると思う。ない筈はない。だが、壁掛けの時計は、その部屋にはないようだ。左の手首に腕時計のベルトが巻かれていることに、羽柴は漸く気付いた。昨夜外した記憶があるのだがと思いながら、布団の中から両腕を出したものの時刻を確認できない暗さが、彼の欲求を無視している。左側にうっすらと明るさが感じられるのは、窓を覆うカーテンの向こうが或る程度明るいからだろう。
 ベッドから出て窓までの数メートルを歩き、カーテンを引いた。木立の向こうが夜明け前の薄明に覆われている。そこには昨日の夕刻に全ての頂上を雨雲に隠されながらも、残雪を斑に見せていた緑色の、長く横たわる山脈があり、木立の隙間にその片鱗を伺わせている。
「もう起きるの?」