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でんでろ3
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novelistID. 23343
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あなたが私にくれたもの

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「……という訳で、俺と別れてくれ」
「ちょっと待って。真剣な別れ話で『という訳で』なんて使う?」
「じゃあ、『……てな訳で』」
「なおさら悪いわ!」
「じゃあ、『……このような事情を鑑みて』」
「もういい。論点はそこじゃないわ。婚約までしておいて、今更、別れてくれって、どういうことよ」
「えーぇ? もう1度、同じことを言うの?」
「同じことなんか言ったら許さないわよ。今の説明では分からないから、別の言葉でわかりやすく言えってことよ」
「端的に言うと……飽きちゃった」
「な、な……」
「ぶっちゃけ、気が変わった。」
「あ~ぁ、ぶっちゃけやがったよ、こいつ」
「……という訳で」
「また、それか。いいわ、別れてあげる」
「いや、そうじゃなくて、別れるにあたって、婚約指輪を返して下さい」
「はぁ? こっちが慰謝料もらいたいって、ときに、『婚約指輪返してくれ』だとぉ?」
「うん、そう言った」
「誰が、返すものですか。こうしてやる」
 女は、指輪をはずして、口にポイッと放り込み、「ん、が、ぐっく」と、どこかのアニメの主人公のような声を上げて飲み込んだ。
 男は、先ほどの威勢はどこへやら、若干ビビりながらも、
「そんなことしたら、消化器官が内側から傷ついてしまうよ」
「そんなこと、関係ないわよ。そういえば、このネックレスも、あなたからのプレゼントだったわね」
 女は、ネックレスを外すと、一端をラーメンでも食べるように、口ですすった。
「そんなことしたら、危ないよ」
「ふんっ、まだまだ、こんなもんじゃないわよ」
 女が、そう言って、軽くくしゃみをすると、先ほどすすったネックレスの端っこが、右の鼻の穴から出てきた。そして、まだ吸い込んでいなかった方の端と右の鼻の穴から出てきた端をつなぐと、左の鼻の穴を指で押さえ、思い切り鼻から息をふきだした。すると、どうだろう。ネックレスが風圧で、自転車のチェーンのように、回りはじめたではないか……。
「何、1人で万国びっくりショーみたいなことをやってるんだ」
と男が言うと、
「まだまだ、こんなもんじゃないわよ。あの車も、あなたに買ってもらったのよね」
 女が指差す先には、1台のパジェロミニが止まっていた。
「いや、もう、止めとけ。車のキーなんかが、食道に刺さったら、死ぬかも知れないぞ」
「はんっ! 車のキーを飲むなんて、中途半端なことはしないわ。私は、カギを貰ったんじゃないわ。車を貰ったのよ」
 女は、そういうと、車の前に立ち、思い切り大きく息を吸い込み始めた。
「いやいや、できっこないって、車自体を飲み込む気か?」
しかし、一拍おいて、パジェロミニが、静かに浮かびだした。
「そ、そんな、馬鹿な、そんなことができるはずがない」
とうとう、車が女の口元に行ったとき、パジェロミニは凄まじい破壊音を立てながら、見えない何かに潰されて、あっさりと女の口へ吸い込まれていった。
「……馬鹿な、ありえない」
「あっ、そうそう、こいつがないと、廃車手続きができないんだった」
女が、ぷっと何か吹き出すと、ガランガランと何かが落ちた。なんだろうと思ってみると、クシャクシャになった2枚のナンバープレイトだった。
「もう、何かを返してくれとは言わないから、もう止めてくれ」
「まだまだ、こんなもんじゃないわよ」
 女は、息も何も乱さずに言った。
「わたしが住んでいるマンションの1室も、あなたに買って貰ったものだわね」
「ま、まさか? いや、ちょっと待て。マンションには何の関係もない住人の皆さんも住んでいるんでだぞ」
「そんなこと、関係ないわ」
女は、そういうと、両手を水平に広げ、竹とんぼのように、スピンをかけながらジャンプすると、空高く飛んで行った。そして、マンションの上に到着すると、また、大きく吸い込み始めた。最初は、びくともしていなかったのですが、アスファルトやコンクリートが地面からはがれて、ゆっくり浮きだし、そして、勢いをつけたように、マンション全体がスピードを増しながら、上空の女の口に到達すると、やはり、すさまじい破壊音と共に、超圧縮されて、女の口に吸い込まれていった。
「ただーいまっとー」
「えっとー、慰謝料として、いくら包めばいいの?」
「要らないわ。そして、……まだまだ、こんなもんじゃないわよ」
「いや、他に何か、あげたっけ?」
「ええ、あなたは言ったわ。『夕闇の空にきらめく、あの1番星を、君にあげる』と」
「金星を?……いやいや、それは、無理だろう。星と星の間は真空になっているんだ。吸い込みは通用しないよ。それに、そんなことをしたら、地球が滅んでしまう。いや、バランスを崩して太陽系が滅ぶかもしれないよ」
「あなたもバカね。このセリフを、まだ、言わせるの?」
おんなは、その場でブリッジをすると、大声で叫んだ。
「そんなこと、関係ないわーっ」
女が、吸い込みを始めると。最初は、そうでもなかったのだが、徐々に金星が大きく見えてきた。
 男は、必死に逃げた。金星が大きくなるスピードが増すに連れて。地球と一体となった女の口も大きくなっていった。

 そして、地球と金星は、熱い抱擁を交わすかのように、お互いを潰しあって、消えていった。

 えっ? 地球を滅ぼしたのは、男か女か? だって?。それは、ハンモックにでも寝そべって、リンゴを丸かじりしながら、考えるとしましょう。