家族の鎖
家族の鎖
檀上 香代子
和 六十歳~六十三歳 未亡人
薫 二十三歳~三十歳 和の娘
辰夫 五十六歳~六十三歳 和の義弟
良子 五十二歳~五十九歳 辰夫の妹
巡査 四十歳
昭雄 三十歳~三十三歳 精神薄弱の和の息子
知之 三十歳~三十七歳 薫の夫
医師 四十五歳
看護婦 三十歳
介護士 五十歳
町内の人々 数名
第 一 幕
第一場
トタン屋根の家の前。数人の人が集まっている。一人の
男性①が上手から登場、女性①男性に気づいて
女 性① どうだった?
男 性① 見つからん。警察からは?
女 性① なーにも。さっき、町内放送を流してくれたんだけど。
(首を振る)
男 性② 時間が時間だから~
上手から巡査
巡 査 今、連絡があった。
男 性① みつかったんかい。
巡 査 ああ、奥さんは?
女 性② 中に-----なにしろ心臓が弱いから、薫ちゃん、薫ちゃん
見つかったよ!
入り口から良子出てくる。後から薫に支えられながら和。
良 子 本当に?
巡 査 ああ、見つかった。今パトカーで、こっちに向かっている。
薫 かあちゃん、よかった。
和 (頷きながら)ウン-----ウン(涙ぐむ)
良 子 そいで、昭雄ちゃんどこで?
巡 査 それが、なんでも可部のほうの一軒家の軒下にいたそうだ。
男 ② そんな遠くへ?
女 ② バスでも一時間は掛かるとこでしょう。
男 ② どう、やって?
巡 査 わからんが、その家の人が気味悪がって110番してきた
そうだ。大きな男が軒下に座り込んで動かないって。
男 ① 腹が空きすぎて動けなかったんだろう。
良 子 人に助けを求めることも、わからん子だから。
巡 査 心配してるだろうから、パトカーの連絡で、とにかく報
告をと思ってな。
和 有難うございました。
巡 査 心配した分、腹も立つだろうが、怒らないように、本人
何もわからんから。
良 子 本当にお手数をかけて、お茶でも。
巡 査 いや、派出所を留守の状態にはできないから。奥さん、
ぼつぼつ息子さん着くころだから。 無事でよかったよ。
(巡査去る)
男①②女①② よかった、よかった。 じゃあ、。(去る)
和・良子 (去る人たちに)本当に有難うございました。 (暗転)
二場
部屋の中テーブルを囲む良子、薫、和。上手より辰夫が
出てくる。
辰 夫 おそくなって、またですか。
和 辰夫さん、ご心配かけました。すみませんね。良子さんに
も面倒かけて。
良 子 いや、それよか貴方の体のほうが心配よ。
和 ------
薫、お茶を勧める
辰 夫 薫ちゃん、大変だったな。まだ福祉のほうから連絡は?
薫 ええ。
辰 夫 和さん、やはり、昭雄の事、考えたほうがいいよ。
良 子 兄さん、こんなときに-------
辰 夫 こんな時だからこそだよ。正直俺は困惑してる。
この先いつまでと思うと、親類だからこそ、はっ
きり言うんだよ。
和 いつもいつもご迷惑かけて!
薫 おかあさん!
辰 夫 母親として、手放す事が捨てたような気持ちにな
るという事は---。しかし、俺の友人が、精神病
院を開設するから、昭雄を引き受けてくれると言
っているんだから、国の施設に入れるまでだけで
も、その病院に頼んでみれば。いい機会だと思わ
ないか?
和 ----------
辰 夫 薫ちゃんだって、これから好きな人ができて、
結婚を考える年頃だ。
薫 おじさん!
辰 夫 きつい言い方だけど、母親と障害のある兄の事を
受けいれ、婿に来てくれるだろうか、
良 子 兄さん、言いすぎだよ。
辰 夫 旦那が亡くなってから、和さんも薫ちゃんも良く
がんばったよ。でも、もう、いいんじゃないか、
強く巻きついている昭雄との鎖を緩めても--
良 子 そうね。私たちだって、協力できる事って、たか
が知れてる。
辰 夫 和さんに同情はしていても、自分たちの生活で
一杯一杯だし、俺だって友達に頼むぐらいしかで
きないし。
和 ------いえ、本当に有難たく思っています。
辰 夫 勿論、病院は自動車で一時間もあればいけるとこ
ろだし、和さんも自分の体を元気しないと、もしも
の事になったら、薫ちゃんに背負わせることに
なるんだからな。
和 ええ。
薫 おじさん、母ちゃんと私話し合って考えてみるから--
良 子 薫ちゃんも少しは自分の事を大事にしてね。
薫 ----------
それぞれの思いのうちに暗転
二 幕
一 場
三年後、部屋の中 暗転の中外で車の止まる音。
ゆっくりFI。薫と和が入ってくる。
薫 (時計を見て) 三時間もかかちゃったね。疲れて
ない?
和 お前たちこそ、泊まり明けに------
薫 平気だよ、私たちは慣れてるから。しかし不景気だ
なんて、どこ吹く風って感じるね、今日の渋滞見て
ると。
和 ---------
薫 お茶、入れようか。
檀上 香代子
和 六十歳~六十三歳 未亡人
薫 二十三歳~三十歳 和の娘
辰夫 五十六歳~六十三歳 和の義弟
良子 五十二歳~五十九歳 辰夫の妹
巡査 四十歳
昭雄 三十歳~三十三歳 精神薄弱の和の息子
知之 三十歳~三十七歳 薫の夫
医師 四十五歳
看護婦 三十歳
介護士 五十歳
町内の人々 数名
第 一 幕
第一場
トタン屋根の家の前。数人の人が集まっている。一人の
男性①が上手から登場、女性①男性に気づいて
女 性① どうだった?
男 性① 見つからん。警察からは?
女 性① なーにも。さっき、町内放送を流してくれたんだけど。
(首を振る)
男 性② 時間が時間だから~
上手から巡査
巡 査 今、連絡があった。
男 性① みつかったんかい。
巡 査 ああ、奥さんは?
女 性② 中に-----なにしろ心臓が弱いから、薫ちゃん、薫ちゃん
見つかったよ!
入り口から良子出てくる。後から薫に支えられながら和。
良 子 本当に?
巡 査 ああ、見つかった。今パトカーで、こっちに向かっている。
薫 かあちゃん、よかった。
和 (頷きながら)ウン-----ウン(涙ぐむ)
良 子 そいで、昭雄ちゃんどこで?
巡 査 それが、なんでも可部のほうの一軒家の軒下にいたそうだ。
男 ② そんな遠くへ?
女 ② バスでも一時間は掛かるとこでしょう。
男 ② どう、やって?
巡 査 わからんが、その家の人が気味悪がって110番してきた
そうだ。大きな男が軒下に座り込んで動かないって。
男 ① 腹が空きすぎて動けなかったんだろう。
良 子 人に助けを求めることも、わからん子だから。
巡 査 心配してるだろうから、パトカーの連絡で、とにかく報
告をと思ってな。
和 有難うございました。
巡 査 心配した分、腹も立つだろうが、怒らないように、本人
何もわからんから。
良 子 本当にお手数をかけて、お茶でも。
巡 査 いや、派出所を留守の状態にはできないから。奥さん、
ぼつぼつ息子さん着くころだから。 無事でよかったよ。
(巡査去る)
男①②女①② よかった、よかった。 じゃあ、。(去る)
和・良子 (去る人たちに)本当に有難うございました。 (暗転)
二場
部屋の中テーブルを囲む良子、薫、和。上手より辰夫が
出てくる。
辰 夫 おそくなって、またですか。
和 辰夫さん、ご心配かけました。すみませんね。良子さんに
も面倒かけて。
良 子 いや、それよか貴方の体のほうが心配よ。
和 ------
薫、お茶を勧める
辰 夫 薫ちゃん、大変だったな。まだ福祉のほうから連絡は?
薫 ええ。
辰 夫 和さん、やはり、昭雄の事、考えたほうがいいよ。
良 子 兄さん、こんなときに-------
辰 夫 こんな時だからこそだよ。正直俺は困惑してる。
この先いつまでと思うと、親類だからこそ、はっ
きり言うんだよ。
和 いつもいつもご迷惑かけて!
薫 おかあさん!
辰 夫 母親として、手放す事が捨てたような気持ちにな
るという事は---。しかし、俺の友人が、精神病
院を開設するから、昭雄を引き受けてくれると言
っているんだから、国の施設に入れるまでだけで
も、その病院に頼んでみれば。いい機会だと思わ
ないか?
和 ----------
辰 夫 薫ちゃんだって、これから好きな人ができて、
結婚を考える年頃だ。
薫 おじさん!
辰 夫 きつい言い方だけど、母親と障害のある兄の事を
受けいれ、婿に来てくれるだろうか、
良 子 兄さん、言いすぎだよ。
辰 夫 旦那が亡くなってから、和さんも薫ちゃんも良く
がんばったよ。でも、もう、いいんじゃないか、
強く巻きついている昭雄との鎖を緩めても--
良 子 そうね。私たちだって、協力できる事って、たか
が知れてる。
辰 夫 和さんに同情はしていても、自分たちの生活で
一杯一杯だし、俺だって友達に頼むぐらいしかで
きないし。
和 ------いえ、本当に有難たく思っています。
辰 夫 勿論、病院は自動車で一時間もあればいけるとこ
ろだし、和さんも自分の体を元気しないと、もしも
の事になったら、薫ちゃんに背負わせることに
なるんだからな。
和 ええ。
薫 おじさん、母ちゃんと私話し合って考えてみるから--
良 子 薫ちゃんも少しは自分の事を大事にしてね。
薫 ----------
それぞれの思いのうちに暗転
二 幕
一 場
三年後、部屋の中 暗転の中外で車の止まる音。
ゆっくりFI。薫と和が入ってくる。
薫 (時計を見て) 三時間もかかちゃったね。疲れて
ない?
和 お前たちこそ、泊まり明けに------
薫 平気だよ、私たちは慣れてるから。しかし不景気だ
なんて、どこ吹く風って感じるね、今日の渋滞見て
ると。
和 ---------
薫 お茶、入れようか。